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胸部外傷に対する開胸術の適応
indications for thoracotomy in chest trauma
山村 仁
(大阪みなと中央病院・副院長)

治療のポイント

・開胸術の目的は,出血に対する止血,気胸に対する処置,消化管損傷に対する汚染回避,胸郭の高度変形による呼吸障害への対応,空気塞栓の防止などである.

・出血に対する処置は外科的手術療法に加え,近年は血管内治療が選択されることが多い.

◆病態と診断

・鈍的胸部外傷では,胸郭損傷(肋骨骨折や胸骨骨折)に加えて,肺,心臓,大血管損傷が起こるが,鋭的損傷,特に銃創では縦隔深部にある食道損傷の合併も念頭におかなければならない.

・診断は,JATECに則り行い,まずは生理学的徴候の破綻がないかを評価する.バイタルサインに加え,視診(胸郭の動きの異常),触診(皮下気腫の有無)や聴診(呼吸音の減弱,左右差)などで,緊急性の高い病態かを調べる.単純胸部X線写真で,透過性低下があれば血胸を,肺の虚脱やdeep sulcus signを認めれば気胸を疑う.

EFAST(extended focused assessment with sonography for trauma)は,血気胸や心タンポナーデの診断に有用である.

・循環動態が安定していれば,造影CTを撮影する.出血の部位診断,食道損傷や大動脈損傷の診断に有用であり,治療方針の決定に役立つ情報が得られる.

・蘇生的開胸術は,心タンポナーデの解除,胸腔内出血に対する止血処置と損傷部の修復,空気塞栓の予防,胸部下行大動脈遮断,直接心臓マッサージを目的として行われる(,「開胸心マッサージ」の項参照).

◆治療方針

 輸液や輸血などを行っても循環動態が維持できず,胸部の損傷(大量の血気胸や心タンポナーデなど)を認める場合は,直ちに緊急開胸術を考慮する.

A肺損傷,気管・気管支損傷,血管損傷

1.出血の場合

 胸腔に出血を認めた場合には,まず胸腔ドレーンを留置する.胸腔ドレーンから,①穿刺時に1,500mLの血液が引けた場合,②穿刺後2~4時間で150~

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