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横隔膜損傷
diaphragmatic injury
桂 守弘
(沖縄県立中部病院・外科医長)

治療のポイント

・横隔膜損傷の多くは,ほかの重症な臓器損傷を合併していることが多く,外傷手術時には横隔膜の適切な術中評価が求められる.

・横隔膜損傷は見逃し損傷の代表格である.

・疑うことが診断の第一歩であり,単純X線検査の感度・特異度は低く,multi-detector row CT(MDCT)検査での多断面CT画像を注意深く読影することが診断には必要である.

・循環動態が安定している患者で横隔膜損傷を疑う場合には,診断的腹腔鏡手術を考慮してもよい.

◆病態と診断

A病態

・横隔膜は胸腔と腹腔をつなぐ薄い筋・神経組織で構成されており,胸部外傷および腹部外傷どちらの損傷でも起こりうる.

・左側損傷が右側損傷の3倍多い.その理由としては,右側には肝臓があること,傷害事件(鋭的外傷)では右利きの加害者が多いことに起因している.

・右側の刺創では,横隔膜の欠損部が小さいために肝臓で横隔膜欠損部が被覆され,早期には見逃されることがある.一方で,鈍的外傷では,横隔膜欠損部が大きいために,徐々に腹腔内臓器が胸腔内へ脱出してヘルニアをきたすことが多いが,時に受傷から数年経過してからヘルニア症状をきたすこともある.

B診断

・胸腹部への高エネルギー外傷などの受傷機転から,まずは疑うことが診断の鍵となる.鋭的外傷では,乳頭から肋骨縁までの範囲に刺入点があれば横隔膜損傷の可能性がある.

・胸部X線:特徴的な所見として,胃管チューブの左胸腔への偏位,左横隔膜の挙上,横隔膜上のガス像,縦隔の偏位,挙上横隔膜付近の無気肺などがあるが,その診断感度・特異度は低い.重症外傷では,多くは臥位でのポータブル撮影になることや,気管内挿管後で陽圧換気下にあることが単純X線での診断を困難にする要因となる.右側横隔膜損傷の場合には,肝損傷に伴って時に右大量血胸が出現することがある.

・超音波:右側の横隔膜損傷の診断で時に有用となる.肺のスラ

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