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腹部大血管損傷
abdominal major vascular injury
木谷昭彦
(島根大学・Acute Care Surgery)

治療のポイント

・腹部大血管は後腹膜に位置しており,損傷の診断が遅れ致命傷となる可能性が高い.

・循環動態が安定している症例では血管内治療も考慮されるが,不安定な症例では緊急開腹によるダメージコントロール手術を行う.

◆病態と診断

A病態

・腹部大血管には腹部大動脈,下大静脈(腎上部/腎下部),腹腔動脈,上腸間膜動脈,腎動静脈,総腸骨動静脈が含まれる.

・単独損傷はまれで,多臓器の損傷を合併していることが多く,死亡率が高い.

・「日本外傷学会臓器損傷分類2008」では,Ⅰ型(内膜または外膜損傷),Ⅱ型(非全層性損傷=解離),Ⅲ型(全層性損傷)に分類される.

・Ⅰ型Ⅱ型では血管内腔の狭窄や血栓閉塞による虚血所見,Ⅲ型では仮性瘤形成や破裂,血管離断などによる出血所見が主体となる.

B診断

・「外傷初期診療ガイドラインJATEC 改訂第6版」に則って,初期診療および蘇生を行う.

・循環動態が安定した症例では外傷全身CTを撮影し,腹腔内出血や後腹膜血腫が認められる場合には,造影CTで損傷部位の検索を行う.不安定な症例にはCT必須ではなく,術中に損傷部位を診断する場合もある.

◆治療方針

A循環動態が不安定な症例

 初期輸液療法は希釈性の凝固障害を予防するために過剰な輸液を避け,早期からの大量輸血療法を赤血球液:新鮮凍結血漿:血小板の比が1:1:1程度になるように行う.

 すぐに止血術を行うことが前提で,damage control resuscitationの考えに則り,収縮期血圧<90mmHgを許容(permissive hypotension)して管理する.

 外傷死の3徴(低体温,血液凝固障害,代謝性アシドーシス)が1つで死亡率36.8%,3つ揃うと死亡率86.7%となるため,初期輸液・輸血療法とともに体温管理にも留意する.

 循環動態が不安定な症例は,機を逸することなく開腹手術を行う.腹部大血管損傷に対する

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