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腹部外傷に対する開腹術の適応
indication for laparotomy in abdominal trauma
伊藤 香
(帝京大学医学部附属病院准教授・救急医学)

治療のポイント

・腹部外傷に対する開腹術において最も重要なことは,致命的な損傷をいち早く見つけ出し治療すること,すなわち,大量出血を止血することである.

・手術中は,同時進行で蘇生処置(輸血,輸液,電解質補正,凝固異常の補正,血行動態への対応など)が十分に行われなければ患者を救命することはできない.

・止血完了後,消化管損傷による汚染に対処する.その他の損傷に関しては,そのあとに対処すればよい.

◆病態と診断

・受傷機転にかかわらず,「外傷初期診療ガイドライン(JATEC)」に準じた初期評価を行う.

A鈍的外傷の場合

・昨今,血管内治療や集中治療の発達により開腹術の適応は狭まっているが,以下の所見は緊急開腹術の適応となる:①循環動態が不安定,②明らかな持続する腹膜刺激症状,③画像上,腸管破裂に伴う腹腔内遊離ガスがある,④横隔膜破裂,⑤血性の胃管排液や吐物.

・患者の循環動態が不安定な場合,腹腔内臓器損傷がある可能性が高い.その場合,extended focused assessment with sonography in trauma(E-FAST)を行い,腹腔内液体貯留があれば開腹術を行う.

・循環動態が正常な場合で,信頼しうる身体所見をとることが可能でほかに腹腔内臓器損傷を疑う徴候がない場合は,頻回の腹部診察と血液検査で経過観察するか,もしくはCTを撮影する.

・循環動態が正常で信頼しうる身体所見をとることができない患者の場合,画像診断が必須となる.

・実質臓器損傷がないのに腹腔内液体貯留を認める場合には,腸管,膀胱,腸間膜損傷の可能性があるため,試験開腹または審査的腹腔鏡を考慮する.特に,シートベルトサインなど,腹腔内臓器損傷を疑う身体所見のある患者には注意が必要である.

B穿通性外傷の場合

・初期評価にて緊急開腹術が必要となる所見は,循環動態が不安定,腹膜刺激症状,刺入物が刺さったままの状

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