頻度 あまりみない
治療のポイント
・長管骨骨折受傷24~72時間で呼吸器症状,中枢神経症状,点状出血斑などが出現した際は,脂肪塞栓症候群(FES)を疑う.
・支持療法が主体で,数日から数週の経過で治癒することが多いが,受傷12時間以内に発症し致死的経過をたどる電撃型脂肪塞栓症候群(fulminant FES)では,早期からの集学的治療を要する.
・骨折固定の遅延がリスク因子となるため,可及的早期に創外固定や内固定による骨折部の固定を行う.
・ステロイドやヘパリンのルーチン投与は推奨されない.
◆病態と診断
A病態
・発生頻度は長管骨骨折例の0.9~2.2%,死亡率は5~15%との報告がある.
・原因として長管骨(特に大腿骨)骨折や骨盤骨折が圧倒的に多いが,整形外科手術や骨髄輸液,骨髄移植時の骨髄液採取,急性膵炎など非外傷性疾患でもまれに生じる.
・骨髄より血中に遊離した脂肪滴が塞栓物質となり肺微小循環を閉塞(脂肪塞栓:fat embolism)して発症する機械的閉塞説(mechanical theory)と,脂肪滴が加水分解されて生じた遊離脂肪酸からの炎症性サイトカイン放出や血小板凝集により血管内皮細胞障害が惹起されて生じる生化学的障害説(biochemical theory)の双方の関与が指摘されている.
B診断
・呼吸器症状(呼吸困難,頻呼吸,低酸素血症),中枢神経症状(軽度の認知障害から昏睡まで),皮膚点状出血斑(結膜,頸部,前胸部,腋窩)が古典的3徴とされるが,これらすべてを満たす頻度は高くない(呼吸器症状:96%,中枢神経症状:60~80%,皮膚点状出血:20~50%).
・長管骨骨折後にこれらの症状が出現した場合にFESを疑うことが肝要.
・貧血や血小板減少,外傷性網膜症(眼底の綿花様白斑),尿中脂肪滴,凝固異常などがみられ,重症例では高度の低酸素血症,肺高血圧症による急性右心不全よりシ