治療のポイント
・緊急気道確保の第1選択は気管内挿管であるが,熟練医が2回試みても不成功の場合には輪状甲状靭帯穿刺・切開術を行う.
・低酸素血症による生命の危機をすみやかに回避するため,分単位での適応の判断と手技が要求される.
・普段から解剖学的知識や気道確保技術を習得し,いざ遭遇した際の対応法をトレーニングしておかねば手が動かず,防ぎ得た死に陥る.
◆病態と診断
A適応
・ほかの方法により気道確保ができない“difficult airway”.
・具体例として,以下のような場合が挙げられる.
1)外傷(顎顔面外傷,出血)
2)アナフィラキシーや気道熱傷による喉頭や声門,気道浮腫
3)気道異物
4)解剖学的構造異常
5)喉咽頭の炎症性浮腫
・アナフィラキシーや気道熱傷は声門や喉頭の急激な浮腫をきたす.原因刺激から分単位で発作が始まり,迅速な対応を迫られる.
B禁忌
1.相対的禁忌
1)12歳以下の小児
2)喉頭外傷,気管損傷
3)輪状甲状靭帯より遠位に狭窄がある場合
2.絶対的禁忌
存在しない.
◆治療方針
A輪状甲状靭帯穿刺
1.ポイント
輪状甲状靭帯に静脈留置針などを穿刺する方法があるが,換気能は著しく劣り酸素供給のみの緊急避難法である.十分な換気を得るにはチューブの内径が少なくとも4mm以上必要である.したがって,静脈留置針穿刺は非現実的な手技である.本項ではクイックトラック(Smiths Medical)を用いた穿刺について解説する.
2.手技
1)右利きであれば患者の左側に立ち頸部を伸展し術野を確保する.
2)輪状甲状靭帯を同定しメスで1cmほどの皮膚縦切開をおく.添付文書では皮膚切開不要とあるが,皮膚穿刺には強い抵抗があり皮下に迷入するおそれがある.まず皮膚切開を行うことが望ましい.
3)輪状甲状靭帯を用手的に確認し,専用器具を用いて尾側方向に穿刺する.穿刺針は,はじめやや立てて確実に輪状甲状靭帯を穿破する.穿破