心膜腔内には,正常時には漿液性の液体が少量(10~50mL)貯留しているが,貯留量が平時より増加すると,臨床的に問題となる.心嚢液貯留による循環への影響は,貯留量のほかに貯留速度に依存している.例えば,外傷による心損傷などの出血性病態では貯留速度が速いため,貯留量が相対的に少量でも短時間で循環が破綻する.貯留した心嚢液が原因で血行動態が不安定化した状態が心タンポナーデであり,時間的猶予のある単なる心嚢液貯留とは異なり,緊急ドレナージの適応となる.
心タンポナーデの身体所見において,単独で感度や特異度が高いものはない.また,Beckの3徴(低血圧・頸静脈怒張・心音の減弱)は,特に急性発症例ではごく少数しか認められない.各国のガイドラインでは超音波検査による評価が推奨され,心嚢液貯留のほか,右心房虚脱(拡張末期),右心室虚脱(拡張早期),吸気時の下大静脈虚脱,僧帽弁・三尖弁流速の呼吸性変動の