心膜腔内には,正常時には漿液性の液体が少量(10~50mL)貯留しているが,貯留量が平時より増加すると,臨床的に問題となる.心嚢液貯留による循環への影響は,貯留量のほかに貯留速度に依存している.例えば,外傷による心損傷などの出血性病態では貯留速度が速いため,貯留量が相対的に少量でも短時間で循環が破綻する.貯留した心嚢液が原因で血行動態が不安定化した状態が心タンポナーデであり,時間的猶予のある単なる心嚢液貯留とは異なり,緊急ドレナージの適応となる.
心タンポナーデの身体所見において,単独で感度や特異度が高いものはない.また,Beckの3徴(低血圧・頸静脈怒張・心音の減弱)は,特に急性発症例ではごく少数しか認められない.各国のガイドラインでは超音波検査による評価が推奨され,心嚢液貯留のほか,右心房虚脱(拡張末期),右心室虚脱(拡張早期),吸気時の下大静脈虚脱,僧帽弁・三尖弁流速の呼吸性変動の増加が認められる.これら超音波検査所見に血行動態の悪化を加味し,心タンポナーデの診断を行う.
A心嚢穿刺法
1.適応
1)心タンポナーデの解除の第1選択(ただし,外傷や急性大動脈解離による出血,急性心筋梗塞に伴う左室自由壁破裂,心嚢穿刺後の再貯留,化膿性心膜炎の場合は心嚢開窓術を第1選択とする).
2)心嚢液貯留の原因検索.
2.手技
1)患者を仰臥位にし,心電図と酸素飽和度のモニターを開始するとともに,穿刺用のキットと超音波診断装置,救急カート(蘇生物品)を準備する.
2)超音波診断装置のプローブをあて,心嚢液を確認し,穿刺部位を決定する.穿刺部位としては,剣状突起左縁と左肋骨弓の交点(Larry's point)のやや下方もしくは胸骨左縁第5肋間がよい.心嚢液の貯留が局所性ではなく,穿刺経路の心嚢液の厚さが1cm以上であれば,安全に穿刺可能である.
3)術野を消毒し,滅菌ドレープで覆う.穿刺部位に局所