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頭蓋直達牽引法 [■外傷処置]
☆☆
skull traction,skull tongs traction
卯津羅雅彦
(東京慈恵会医科大学附属柏病院教授・救命救急センター)

◆病態と診断

・頸椎・頸髄損傷は,受傷時の外傷による1次性損傷と受傷後に生じる頸髄への圧迫や虚血による2次性損傷に分類される.頭蓋直達牽引の目的は,1次性損傷により生じた不安定性への対応と2次性損傷による症状軽減にある.傷病名としては,環椎破裂骨折や軸椎骨折(歯突起骨折,関節突起間骨折)などの上位頸椎損傷や頸椎脱臼骨折が挙げられる.

・頸椎損傷の診断には,頸椎単純X線やCTが施行される.特にCTは多発外傷が疑われる場合に,頭部を含めた体幹までを一度に撮影されることが多い.その結果,頸椎レベルの再構成画像(軸位断+冠状断・矢状断)により頸椎骨折や脱臼に対する詳細な情報を得ることができる.可能であれば,頸椎MRIの撮像を追加できると,頸髄への損傷や狭窄・圧迫,血腫の有無などに対する詳細な情報を得ることができるので,治療方針決定には非常に有用である.そのため,牽引に用いる器具の材質は,CTとMRIの両者に互換性のあるものが望ましい.また椎骨動脈損傷の可能性がある場合には,3D-CTAまたはMRAの追加も考慮することが望ましい.

◆治療方針

 頸椎を牽引する目的は,骨折や脱臼に伴う変化を軽減し,神経機能を有する頸髄への圧迫の軽減と安定性を確保することである.牽引操作自体により,症状増悪を生じる可能性もあるので,適応の判断と手技の実際は経験豊かな医師のもとで施行されるべきである.自施設で対応困難な場合は,できるだけ早期に専門診療が可能な施設への転送を考慮する.

 通常の頭蓋直達牽引に用いる器具は,2本のピンを骨性頭蓋の180度離れた位置の骨外板を貫通させて固定する.この際,骨内板の貫通による脳組織への損傷は避けなければならない.牽引は,通常5kg程度から開始し,整復位を目標に2.5~5kgずつ増量し,その度に神経所見と縦方向の牽引の状況を頸椎側面X線画像またはX線透視を用いて確認する(整復の状

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