治療のポイント
・傷病者初期治療においては,スタッフ・他患者・医療機器のさらなる汚染を防ぐための予防策を徹底する.
・患者の初期評価では気道の評価と安定化が最優先となる.
・嘔吐誘発・胃洗浄・活性炭・中和・希釈療法は,いずれも行わない.
・皮膚や目に付着したら大量の水で洗浄する.
・重大な誤飲が疑われる患者は理想的には12時間以内,遅くとも24時間以内に上部消化管内視鏡検査にて重症度評価を行う.
◆病態と診断
A病態
1.アルカリ
・解離した水酸化物(OH-)が組織表面に浸透し,液状化壊死の組織学的パターンをとる.
・損傷過程には,蛋白質の溶解,コラーゲンの破壊,脂肪の鹸化,血栓形成,細胞死などが含まれる.
・OH- 濃度が組織で十分に中和されるまで浸透し続けるため,組織深達度は進行する.
・一般にpHが11を超えると重大な障害を引き起こす.
2.酸
・水素イオン(H+)が上皮細胞を乾燥させ,炭化物を生成し凝固壊死の組織学的パターンをとる.
・損傷過程には組織の浮腫,紅斑,粘膜の剥離,潰瘍化および壊死が含まれる.
・一般にpHが3以下で重大な障害を引き起こす.
B診断
・接触もしくは摂取の事実の聴取が診断の起点となる.
・損傷メカニズムに違いはあるものの,酸・アルカリによる損傷は,同部の疼痛を惹起する.
・一般に酸・アルカリとも十二指腸より肛門側に傷害は及ばない.上部消化管の傷害の重症度評価のためには早期の上部消化管内視鏡検査が推奨される(図).内視鏡所見が治療管理方針決定に寄与すること,組織傷害の進行に伴い食道損傷のリスクが上がることより,理想的には摂取12時間以内,遅くとも24時間以内に施行するべきである.
C合併症
1.急性期
・眼球:眼痛・結膜充血・角膜潰瘍.
・口腔・咽頭:浮腫・粘膜損傷・流涎・嚥下障害.
・食道:粘膜の化学損傷(腐食性食道炎)・潰瘍形成・壊死・穿孔→縦隔炎.
・胃:心窩部痛・吐血・穿孔→腹膜炎.
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