今日の診療
治療指針

石油製品中毒(ガソリン・灯油)
petroleum(gasoline and kerosine)poisoning
畠中健吾
(宮崎大学医学部附属病院・救命救急センター)

頻度 あまりみない

治療のポイント

・経口摂取では消化管粘膜刺激作用による急激な悪心・嘔吐,下痢などの消化器症状が生じる.

・催吐や胃洗浄は禁忌であり,活性炭投与も推奨されない.

・誤嚥により重篤な化学性肺炎やARDSなどの呼吸器症状を生じ,呼吸器管理が必要となる.

◆病態と診断

・ガソリンや灯油は石油から精製される炭化水素化合物であり,脂肪族炭化水素やベンゼン,トルエン,キシレンなどの芳香族炭化水素を含有する.

A病態

・経口摂取した場合は消化管からほとんど吸収されず,消化管粘膜刺激作用を示す.

・吸入した場合は中枢神経系に容易に移行して中枢神経抑制作用を示す.

・吸入した場合は心筋感受性亢進作用が生じ,カテコールアミンによる不整脈誘発作用を増強する.

・高濃度の吸入や経口摂取に伴う誤嚥の際には気道粘膜刺激作用による重篤な化学性肺炎急性呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)などの呼吸器症状を生じる.特に誤嚥の場合は数mLと少量でも化学性肺炎を生じることがある.

B診断

・石油製品への曝露歴や摂取歴を問診で聴取することや石油特有の臭気が重要である.

1.吸入

・軽症~中等症:嘔気・嘔吐,頭痛,めまい,多幸感,無気力,失見当識,運動失調.

・重症:昏睡,けいれん,呼吸停止,低酸素血症,窒息,化学性肺炎,ARDS,徐脈,頻脈性不整脈,心室性不整脈,心停止.

2.経口摂取

・嘔気・嘔吐,下痢,腹痛,出血性胃腸炎,誤嚥した場合は化学性肺炎・ARDS.

◆治療方針

 治療は全身管理や対症療法が主体であり,無症状でも摂取後6時間はモニタリングしつつ経過観察する.

 ガソリンや灯油は粘度が低く誤嚥を生じやすいので催吐や胃洗浄は禁忌である.また,活性炭による効果的な吸着は得られないため,活性炭投与は推奨されない.重篤な化学性肺炎やARDSがあれば気管挿管を施行し呼吸器管

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