今日の診療
治療指針

シアン中毒
cyanide poisoning
小原佐衣子
(国立病院機構災害医療センター・救命救急センター(東京))

頻度 あまりみない

◆病態と診断

・シアン化カリウムやシアン化ナトリウムは工業分野で利用される.それらを服用し胃酸と反応するとシアン化水素(HCN)が発生し消化管から吸収される.シアン化物は皮膚や粘膜からも吸収される.

・窒素を含む有機物の燃焼によりHCNが発生するため,火災によるシアン中毒が起こる.

・アミグダリンを含む梅,アンズなどの種を大量摂取するとシアン中毒が起こる.

A病態

・シアン化物イオン(CN-)は3価の鉄イオンと強い親和性をもち,ミトコンドリアのシトクロムオキシダーゼを阻害し,細胞内呼吸が障害され多臓器不全となる.特に脳や心臓が大きく影響を受け,頭痛頻呼吸などの症状が早期にみられ,重症の場合は意識障害,けいれん,呼吸停止,不整脈,心停止に至る.

B診断

・曝露が疑われ,乳酸アシドーシス,静脈血酸素飽和度の上昇,皮膚の鮮紅色,呼気のアーモンド臭などがあれば本疾患を疑う.

◆治療方針

 2次被害を回避する.100%酸素を投与し好気性代謝を促す.急性中毒治療の原則()に則り,全身管理を行う.わずかだが活性炭に吸着するため投与する.胃洗浄は行わない.

A解毒拮抗薬

1.ヒドロキソコバラミン

 血中のCN- と結合しシアノコバラミン(ビタミンB12)に変換され尿中に排泄される.本疾患が疑われたら診断を待たずに投与する.

Px処方例

 ヒドロキソコバラミン(シアノキット)注(5g/V) 成人は1回1V,小児は70mg/kgを生理食塩液200mLに溶解し15分間以上かけて静注.1回追加投与可能(15分間~2時間かけて)

2.亜硝酸アミル・亜硝酸ナトリウム・チオ硫酸ナトリウム

 ヒドロキソコバラミンが迅速に投与できない場合に使用する.メトヘモグロビン血中濃度を20~25%にする.火災によるシアン中毒の場合は亜硝酸塩の投与は行わない.

Px処方例 2)の投与が可能になるまでの間に1)を投与する〔1),

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