今日の診療
治療指針

ヒ素中毒
arsenic poisoning
稲葉大地
(済生会福岡総合病院・外科)

頻度 あまりみない

 ヒ素は半金属に分類され,酸素や炭素などほかの元素と結合して自然環境中に存在する.半導体産業や再発・難治性急性前骨髄球性白血病治療剤などで利用されている.

 3価と5価の種々の無機および有機化合物が存在する.3価の無機ヒ素化合物は毒性が強く,気体であるアルシンの毒性が最も強い.

 本項では,和歌山毒物カレー事件でも用いられた無機ヒ素化合物の固体による急性ヒ素中毒を中心に説明する.代表的な3価無機ヒ素化合物の三酸化ヒ素は,白色または透明の無味・無臭で塊状物または結晶性粉末である.

◆病態と診断

A病態

・ヒトの致死量は70~300mgとされているが,ヒ素化合物の形態や年齢,性別などに影響される.

・急性ヒ素中毒の正確な機序は明らかではないが,3価はスルフヒドリル基(SH基)との親和性が高く,解糖系のピルビン酸脱水素酵素やTCA回路のα-ケトグルタル酸脱水素酵素などさまざまな酵素を阻害し,結果として,ATP合成が阻害されると考えられている.また,直接的な消化管や心筋,肝毒性も考えられている.

・主に消化管からすみやかに吸収され,肝臓や腎臓,毛髪,皮膚などに分布する.血液脳関門も通過する.肝臓でメチル化によって代謝され,主に尿中から排泄される.血中半減期は超急性期では1~2時間と短いが,組織には再分布しており尿中からの検出は継続している.

B診断/症状

・急性ヒ素中毒に特異的な症状はなく,病歴や症状から疑い,毒物分析機器による血液や尿からの検出が確定診断となる.

・呼気や糞便からのニンニクのような臭いが診断の助けになる.

・急性中毒の症状は摂取直後から数時間で激しい嘔吐や下痢などの消化器症状を中心に,ショックや心電図異常などの循環器症状,急性腎機能障害などがみられる.急性期ではまれだが,けいれんや脳症などの中枢神経症状を呈すこともある.多発ニューロパチーや色素沈着,角化症などの皮膚症

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