今日の診療
治療指針

塩素ガス中毒
chlorine inhalation and exposure
落合秀信
(宮崎大学教授・救急・災害医学)

頻度 あまりみない

治療のポイント

・酸性洗浄剤と次亜塩素酸ナトリウム含有製品の混合により家庭内でも生じる.

・2次被害に注意しつつ,まず新鮮な空気下に移動し酸素を投与.

・眼症状があれば流水で洗浄し眼科コンサルト.

・化学性肺炎やARDSを生じ,重篤化することもある.

◆病態と診断

A病態

・塩素系カビ取り剤と酸性洗浄剤を誤って混ぜることで,次亜塩素酸ナトリウムが分解され塩素ガスを生じ家庭内事故となることもあるため,これらの製品には「混ぜるな危険」の表示が義務づけられている.その他,塩素系薬剤を使用したプールや浄水場での発生事例もある.

・吸入された塩素ガスは湿った粘膜に吸収され,塩酸と次亜塩素酸(フリーラジカルによる強い酸化作用)に分解され組織を傷害する.

・粘膜への刺激作用が強く,ツンと刺すような刺激臭が特徴.

重篤な肺障害を生じることもあり,致死濃度は100~1,000ppm.

・重症度は曝露濃度と曝露時間,水溶性の程度により決定.

B症状

粘膜への刺激が強い.

・眼:痛み,流涙,結膜炎,角膜潰瘍など.

・気道粘膜:疼痛,鼻炎,嗄声など.

・呼吸器:強い咳嗽,喘鳴,呼吸困難,上気道閉塞,気管・気管支炎,化学性肺炎,急性呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)など.

・曝露程度により重症度が異なる.

C診断

・塩素ガスへの曝露と刺激臭,粘膜・気道・呼吸器症状があれば疑う.

◆治療方針

 新鮮な空気下へ移動し,呼吸心拍モニターを行い酸素投与を行う.眼症状には15分以上流水で洗浄し眼科へコンサルトする.

 著明な咳嗽には鎮咳薬を投与し,喘鳴にはβ2 刺激薬の吸入,無効時はアミノフィリンの点滴静注を行う.急性上気道閉塞には気管挿管などの気道確保を行い,必要に応じて人工呼吸器管理とする.ARDSでは人工呼吸器管理を要する(,「急性呼吸促迫症候群」の項参照).

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