今日の診療
治療指針

揮発性有機化合物による中毒(シンナー吸入を含む)
volatile organic compounds poisoning(including paint thinner inhalation)
小林憲太郎
(国立国際医療研究センター病院・救命救急センター救急科第2救急科医長(東京))

頻度 あまりみない

治療のポイント

・医療従事者の2次被害に注意し,必要であれば除染(乾式および石鹸洗浄)を行う.経口摂取している場合には吐物にも十分注意する.

・呼吸器症状,消化器症状および重篤な場合は不整脈などをきたすこともあり,呼吸・循環のモニタリングを行う.

・基本的な治療方針は対症療法である.解毒・拮抗薬はない.

◆病態と診断

・トルエン,キシレン,ジクロロメタンおよびトリクロロエチレンなど.シンナーはトルエン,キシレン,メタノールなどの混合溶液である.

・シンナーなどの有機溶剤の生涯使用率は,違法薬物の中でいまだ2番目に多いが,減少傾向にある.

・中毒の原因としては自殺企図,乱用のほかに飲料容器へ移し替えていたことによる誤飲,塗装および機械洗浄中などの職業曝露などがある.

・はじめから有機溶剤による中毒であることが明らかではない場合もあり,現病歴や職業歴,症状出現時の状況などの情報収集により有機溶剤による中毒であることを明らかにする.

尿中馬尿酸,メチル馬尿酸はそれぞれトルエン,キシレンの代謝物であり診断の補助となる.

・吸入により容易に体内に取り込まれ血液脳関門を通過して中枢神経症状(幻覚,妄想,錯乱,昏睡,けいれんなど)を呈する.呼吸停止にも注意する.

・経口摂取では消化器症状(嘔気,嘔吐,腹痛,下痢など)をきたす.

・重篤な呼吸器症状として化学性肺炎や急性呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)をきたす.

・慢性曝露では不可逆性の中枢神経障害(振戦,失調,脳萎縮,認知障害など)がみられる.

◆治療方針

 急性中毒治療の原則に沿って治療を行う.特異的な解毒・拮抗薬はなく,対症療法を行う.

 呼吸器症状を呈する患者に対しては酸素療法を行う.呼吸抑制および呼吸不全の状態であれば気管挿管・人工呼吸器管理を行う.

 初期評価を行ったうえで,無

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