今日の診療
治療指針

硫化水素中毒
hydrogen sulfide poisoning
吉永雄一
(関西メディカル病院・救急集中治療部副部長(大阪))

頻度 あまりみない

治療のポイント

・非常に毒性の強いガスであり,傷病者の付着物などからの2次曝露の危険性に注意する.

・治療の基本は,曝露からの離脱と100%酸素の投与である.

・解毒・拮抗薬として亜硝酸塩(亜硝酸アミルおよび亜硝酸ナトリウム)の投与がある.

◆病態と診断

A病態

・硫化水素は常温では無色透明な気体で空気より重く,腐卵臭とよばれる特徴的な臭気を有する.

・かつては火山帯や工場,マンホール内などで自然発生したガスによる事故症例が主であったが,インターネットの普及に伴い,自殺目的に含硫入浴剤(六一〇ハップ:現在生産中止)や農薬(石灰硫黄合剤)と家庭用酸性洗浄剤(サンポール)を混合して,故意に発生させる自傷症例が増加した.

・低濃度では眼,気道,皮膚などの粘膜に対する直接刺激作用を生じるものの,組織には蓄積されず代謝され尿中に排泄されていく.一方,高濃度ではシアンイオン(CN-)と同様に3価鉄イオン(Fe3+)に強い親和性を有するスルフヒドリルイオン(HS-)が,ミトコンドリア内のチトクロムオキシダーゼのFe3+と結合することで酵素活性を阻害し,細胞呼吸の障害による組織低酸素症や中枢神経系細胞の直接障害を引き起こす.

B診断

・硫化水素は不安定な物質であり,生体資料を分析しても硫化水素やHS- は検出されないことが多い.消防機関などでは現場の硫化水素ガス濃度を測定可能な場合がある.

・現場の状況(特有の臭気など)や証言から曝露を疑い,臨床症状から診断に至ることがほとんどである.

・臨床症状は曝露する硫化水素濃度によって変化がみられる.特徴的な腐乱臭は低濃度でも感じることが多いが,100ppm以上の濃度になると嗅覚麻痺を生じて気づかないことがある.

・50ppm以上で眼,気道,皮膚などの粘膜刺激症状,200ppm以上で頭痛,悪心,不穏,せん妄などの中枢神経症状,300ppm以上で急性呼吸促迫

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