今日の診療
治療指針

トリカブト中毒
aconite poisoning
福島英賢
(奈良県立医科大学教授・救急医学)

頻度 あまりみない

治療のポイント

・トリカブトの毒性成分はアコニチン系アルカロイド(アコニチン,メサコニチン,ヒパコニチン,ジェサコニチン)で,根,茎,葉,花のすべてに含まれており,きわめて心毒性が高いことから心停止に至りうる.トリカブト毒は推理小説にも出てくる毒物であり,殺人事件などにも使用されたことがある.しかし日常の救急診療においては,食用の山菜と誤って誤食する事例として発生している.漢方薬に含まれる附子は根を乾燥させたものであるが,毒性を下げて使われている.

◆病態と診断

・トリカブト毒は細胞膜のNaチャネルに作用し,Naチャネルを開いたままの状態にすることで毒性を発揮する.

・トリカブトによる急性中毒症状は,服用後すみやかに出現する.口や手足のしびれ,腹痛などの消化器症状に始まり,重症例では不整脈血圧低下から心停止に至る.

・定性試験,血清診断など特異的な診断方法はない.このためトリカブトを食した,という病歴が得られない場合,本中毒を疑うことすら困難である.心電図や血液検査にて説明のつかない不整脈循環不全を呈する症例においては,症状発現前に食したものについて詳細に問診し,疑うことが重要である.

◆治療方針

 突然の心停止に備えて,静脈路確保を行う.経口摂取している場合がほとんどであり,まずは基本的な胃洗浄,活性炭投与を実施する(,「急性中毒治療の原則」の項参照).

A不整脈に対して

 徐脈性不整脈と心室性不整脈に対する治療を行うが,いずれにせよ血中のアコニチン濃度が低下するまでは治療抵抗性であることに留意する.

1.徐脈性不整脈

Px処方例

 アトロピン硫酸塩注 1回0.5~1.0mg 3~5分ごとに静注(最大投与量は3mgまで)

 上記を行いながら,経皮的ペースメーカ留置の準備を進める.

2.心室性不整脈

 アミオダロンの静脈内投与を行う.

Px処方例

 アミオダロン(アンカロン)注 

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