頻度 あまりみない
治療のポイント
・脱水と溶血性尿毒症症候群(HUS)を予防するため,経口補水液の投与および必要に応じた経静脈的輸液が重要である.
・止痢剤はHUSの発症率を高めるため使用してはならない.
・抗菌薬は腸管出血性大腸菌からの志賀毒素の産生を促しHUSの発症率を上げるため,成人では原則として使用しない.
・小児では発症早期の経口ホスホマイシン(FOM)の投与がHUSの発症率を下げる可能性がある.
◆病態と診断
A病態
・志賀毒素(ベロ毒素)を産生する腸管出血性大腸菌(EHEC)による大腸炎である.
・潜伏期は3~5日.頻回の下痢で始まり,1~2日で血便(新鮮血)がみられる.強い腹痛やテネスムス(しぶり腹)を伴う.
・発症から約1週間後,幼児と高齢者を中心に6~15%の患者が溶血性尿毒症症候群(HUS:hemolytic uremic syndrome)を発症する.
・HUSは,①溶血性貧血,②血小板減少,③腎不全を3徴とし,10~30%が脳症を合併し致死的になる.
・志賀毒素には1と2のタイプがあるが,志賀毒素2産生菌でHUS発症率が高い.
B診断
・臨床症状から細菌性腸炎を疑った場合は,必ず便培養を実施する.
・便培養でEHECを検出することで,診断が確定する.
・2016~2020年のわが国のEHEC O血清群はO157が53%を占め,次いでO26,O103,O111,O121,O145,O91の順である.
・EHECは多様性に富むため,同定にはO血清群だけではなく,志賀毒素の確認が必要である.
◆治療方針
A対症療法
経口補水液(OS-1やアクアライトなど)を用いて脱水を予防する.脱水の程度に応じて,等張性輸液製剤を用いた経静脈的輸液を積極的に行う.適切な輸液療法によってHUSの出現頻度が減少することが報告されている.
止痢剤はEHECの排出を阻害し,HUS発症率を高めるため使用してはならな
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