今日の診療
治療指針

炭疽 [■4類感染症]
anthrax
國島広之
(聖マリアンナ医科大学主任教授・感染症学)

頻度 あまりみない

治療のポイント

・近年,わが国では感染事例はないものの,海外では散発例がある.

・黒色の皮膚病変である皮膚炭疽が多くみられ,重篤な全身性炭疽をきたすこともある.

・診断した際は直ちに抗菌薬による治療を開始する.

◆病態と診断

A病態

・炭疽は,炭疽菌(Bacillus anthracis)による感染症である.

B. anthracisは,B. cereusと近縁のグラム陽性有芽胞菌で,毒素ならびに莢膜によって強い病原性を有する.芽胞は耐熱性,耐消毒性であり,ウシ,ヤギ,ヒツジなどの草食動物とヒトの人獣共通感染症である.

・潜伏期間は数時間から数週間で,おおむね数日である.感染部位に無痛性の丘疹,水疱,膿疱,周囲の浮腫とリンパ節腫脹を認め,黒色に変色した潰瘍性病変となる皮膚炭疽が90%以上にみられる.その他,腸炭疽肺炭疽髄膜炭疽がみられ,無治療での致死率は高い.

・わが国では2000年以降,人畜ともに報告はないものの,海外では自然感染例がしばしばみられる.

B診断

・皮膚病変や血液,髄液などの感染部位からB. anthracisを培養同定することにより診断する.

・病変周囲のリンパ節腫脹や浮腫,腸炭疽,肺炭疽や,腰椎穿刺により髄膜炭疽の有無を確認する.

・流行地域からの汚染された家畜や獣との接触,バイオテロ,汚染された注射によるアウトブレイクの報告がある.

◆治療方針

‍ B. anthracisは,セファロスポリン系薬とST合剤には耐性がある.β-ラクタマーゼ産生株でなければペニシリン系薬が投与される.

 皮膚炭疽では,シプロフロキサシンもしくはドキシサイクリンを経口投与する(レボフロキサシンなどの類薬でもよいとされる).

 全身性炭疽では,感受性を有する抗菌薬を経静脈で併用投与し,副腎皮質ステロイド薬の投与が考慮される.米国では抗炭疽ヒトモノクローナル抗体(Raxibacumabな

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