今日の診療
治療指針

多剤耐性アシネトバクター [■5類感染症-全数把握]
multidrug-resistant Acinetobacter baumannii(MDRA)
高橋 聡
(札幌医科大学教授・感染制御・臨床検査医学)

頻度 あまりみない

ニュートピックス

・有効な治療法は確立されていないが,新規抗菌薬の有効性が検討されている.

治療のポイント

・有効な治療法は確立されていない.

・感染症に対しては,少数の臨床研究をもとに治療法を検討する以外ない.

・感染対策による伝播防止を第一に考える.

◆病態と診断

A病態

多剤耐性アシネトバクターによる感染症は,わが国の感染症法では,薬剤耐性アシネトバクター感染症として広域β-ラクタム系,アミノグリコシド系,フルオロキノロン系の3系統の薬剤に対して耐性を示すアシネトバクター属菌による感染症と定義される.

・感染症法での届出基準としての検査方法・所見は,イミペネムの最小発育阻止濃度(MIC)が16μg/mL以上,アミカシンのMICが32μg/mL以上,シプロフロキサシンのMICが4μg/mL以上という3つの条件をすべて満たした場合である.

・代表的な日和見感染症の原因菌であり,さまざまな要因による易感染性,長期の抗菌薬投与,人工呼吸器装着,中心静脈カテーテル留置の患者において呼吸器感染症,尿路感染症,血流感染症,髄膜炎,皮膚・軟部組織感染症などを引き起こす.

B診断

・診断は,感染症が生じた部位の検体からアシネトバクター属菌が分離され,薬剤感受性試験により薬剤耐性アシネトバクターと判定されることによる.

◆治療方針

 有効性が確立された抗菌薬はない.

 アシネトバクター属菌に対する治療薬として,コリスチンとチゲサイクリンが挙げられ,治療の選択肢となる.

 無症候性感染に対する治療を行う際は,その意義を十分に検討する.無症候性感染への最も重要な対応は感染伝播の防止であり,接触感染予防策を徹底する(ただし,それでも不十分な場合がありうる).

Px処方例 下記のいずれかを用いる.

1)コリスチン(オルドレブ)注 1回1.25~2.5mg/kg 1日2回 30分以上かけて点滴静注

2)チゲサイク

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