今日の診療
治療指針

糞線虫症
strongyloidiasis
船川慶太
(昭和会いまきいれ総合病院・消化器内科主任部長(鹿児島))

頻度 あまりみない

◆病態と診断

A概要

・糞線虫症は,熱帯,亜熱帯地方に分布するStrongyloides stercoralisの感染によって引き起こされる.本邦における浸淫地は,沖縄,奄美地方であり,上記以外の地域では,同地方の出身者に多い.ほぼ60歳以上であり,衛生環境が改善された近年の新規感染例は非常に少ない.いったん体内に入ると,数十年にわたり寄生し,治療を行わない限り治癒しない.ヒトT細胞性白血病ウイルス(HTLV-1)との重複感染が認められることが多い.

・汚染された土壌に素足で入ったときなどに,感染性のフィラリア型幼虫が経皮的に感染する.1週間程度で血液やリンパ流を介して心臓から肺に到達し,肺胞壁を突き破り,気管支から咽頭に至る.嚥下にて,感染から2~3週で十二指腸・空腸へ到達して成虫となる.成虫が粘膜で産卵し,腸管内で孵化して非感染性のラブジチス型幼虫となり,大部分は糞便中に排出される.一部は,腸管内でフィラリア型成虫となり,小腸粘膜,肛門周囲皮膚から再感染し,慢性の持続感染状態が成立する(自家感染).

・通常は宿主の免疫力により寄生数が抑制され,無症状~軽症のことが多いが,感染数が多くなると,下痢,腹痛,咳嗽などの症状がみられる.HTLV-1感染時や,免疫抑制薬・ステロイド剤・抗癌剤使用時など,宿主の免疫能が低下すると自家感染が増え,過剰感染状態となり,麻痺性イレウス,吸収不良,消化管出血,喘息,血痰などが出現する(過剰感染症候群).さらに増殖すると,消化管壁を突き破り,全身の組織・臓器に行き渡り,幼虫に付着した腸内細菌も腸管外へ散布され,敗血症,肺炎,髄膜炎など,重篤な病態を引き起こす(播種性糞線虫症).原因となる腸内細菌としては,肺炎桿菌,大腸菌,腸球菌などが多い.

B診断

・糞便中の虫体を証明することで診断する.直接塗抹法では,少数の場合は検出率が低い.普通寒

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