頻度 あまりみない
多細胞寄生虫である蠕虫は,子孫を残すために終宿主(definitive host)とよばれる性成熟を行うための宿主を必要とする.この一連の繁殖の過程(生活環)のなかに含まれないが,偶発的に人間に感染した幼虫による感染症を幼虫移行症と総称する.
蠕虫は線虫,吸虫,条虫に大別される.線虫症は,主には腸管内に寄生する線虫(ヒト回虫,ヒト鉤虫など)と,血液臓器を標的とする線虫(ロア糸状虫,バンクロフト糸状虫やマレー糸状虫など)によるものに分けられる.
Aイヌ糸状虫症
イヌ糸状虫症は,イヌを終宿主とするDirofilaria immitisがヒトに偶発的に感染して起こる.D. immitisは蚊媒介によってイヌ-イヌ感染するが,そのなかでヒトに感染した場合は成虫になることができない.イヌへの感染時と同様に血流にのった幼虫は肺塞栓を起こし,それが肺病変として指摘される.画像所見から肺腫瘍を疑われ,外科切除を行うことで診断されることが一般的である.肺外では皮下への迷入などが報告されている.
偶発的に診断されることが一般的であり,追加で蠕虫薬の投与は行わない.
B動物由来の回虫症
1.アニサキス症
線虫のなかで腸管への寄生を主とする回虫は,それぞれの種類ごとに終宿主が決まっている.日本ではタヌキ回虫などさまざまな非ヒト回虫が存在するが,ヒトへの幼虫移行症として最も重要なのはクジラ目回虫ともいえるアニサキス症である.アニサキス症はAnisakis simplex,Anisakis physeterisとPseudoterranova decipiensによる幼虫移行症の総称である.中間宿主である魚介類(生のサバ,イワシなど)の生食により,ヒトの胃や腸管に時に局所の炎症を引き起こすことが問題となる.アニサキス症は無症状のことも少なくなく,健康診断目的の上部内視鏡や下部内視鏡で発見