今日の診療
治療指針

低血圧症
hypotension
安部治彦
(産業医科大学教授・不整脈先端治療学)

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◆病態と診断

・一般的に低血圧は収縮期血圧100mmHg未満であり,それに伴う何らかの症状を伴う場合に低血圧症と診断する.

・最も発生頻度が高いのは起立性低血圧症であり,起立後3分以内における収縮期血圧20mmHg以上の低下,あるいは拡張期血圧10mmHg以上の低下のいずれかの場合に診断される.

・原疾患の鑑別には,低血圧が進行性であるか否か,全身疾患(脱水,貧血,部分自律神経障害か汎自律神経障害か,など)がないかどうか,あるいは自律神経に影響を及ぼす薬剤(降圧薬,亜硝酸薬,精神安定剤,睡眠薬など)の服用を最近開始していないか,あるいは薬剤変更がなされていないか,などを確認する.

・起立試験で,血圧低下時に反応性の心拍数上昇をほとんど認めない場合には自律神経障害による低血圧を,血圧低下時に極端な心拍数上昇を認める場合には脱水や貧血などによる2次的な起立性低血圧を疑う.

◆治療方針

 基本方針は,循環血漿量を増加させることと,下肢への血液貯留や静脈還流障害を予防することである.2次性の起立性低血圧であれば,原因疾患の治療を行い,誘因が明らかな場合はそれを除く.

 ふらつき,めまい,全身倦怠感,眼前暗黒感などの低血圧に伴う症状がなく,日常生活が障害されていない場合には,治療を行わないこともある.しかし,低血圧に伴う明らかな症状を有する場合や,失神など重篤な症状を有する場合には,転倒による外傷なども危惧されるため治療の対象となる.症状を有する患者では,多くの場合,日常生活指導を含めた非薬物治療に加え,薬物治療も併用して対応することが多い.

A非薬物治療

 一般的に低血圧患者は同時に起立性低血圧も合併していることが多い.これらの患者で特に注意が必要なのは,起立時の失神や眼前暗黒感などの前失神症状による転倒や外傷の予防である.起立性低血圧では,急激な起立を避け,起立直後にすぐに動くのを止

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