今日の診療
治療指針

心タンポナーデ
cardiac tamponade,pericardial tamponade
矢野雅文
(山口大学大学院教授・器官病態内科学)

頻度 あまりみない

治療のポイント

・胸痛,息切れ,血圧低下といった臨床症状から,まずは心膜疾患の存在を疑うことが重要であり,特徴的な心エコー所見から心タンポナーデと診断する.

・急性の心嚢液貯留に伴い血行動態が不安定な場合には,心嚢穿刺により血行動態を安定化させる.

◆病態と診断

A病態

・何らかの原因により心膜腔に心嚢液が貯留することで心膜伸展の限界に達した結果,心膜腔内圧が上昇して心腔内圧を超えると,まず右房から拡張障害が生じ静脈還流が減少する.すなわち心タンポナーデとは,右心系の充満障害,左室拡張期容量の減少,1回拍出量の低下から低心拍出症候群(LOS:low output syndrome)をきたし,血圧が低下し,血行動態が破綻する疾患である.

・急性貯留:急性心筋梗塞後の心破裂,急性大動脈解離(Stanford A型),カテーテルによる冠動脈・心筋の穿孔,心膜心筋炎,外傷性などでみられる.急速に少量の心嚢液が貯留しただけで容易に心タンポナーデをきたし,重症化することも多い.

・慢性貯留:悪性腫瘍の心膜転移による癌性心膜炎が最も多く,開心術後,特発性心外膜炎,尿毒症,ウイルス性,結核性,膠原病,胸部への放射線療法後,甲状腺機能低下(粘液水腫)などにより緩徐に心嚢液が貯留する.症状の出現までに比較的時間を要し,多量の心嚢液が貯留することもまれではない.

B診断

1.診察所見

・慢性貯留の場合は,右心不全症状が主体で,古典的にはBeckの3徴(低血圧,頸静脈怒張,心音の減弱化)である.ただし,LOSに伴う症状(全身倦怠感,呼吸困難,四肢冷感,乏尿など)のみが出現することもある.

・急性貯留の場合は,Beckの3徴が出現することはあるが,その頻度は低い.

・吸気時に10mmHg以上にわたり血圧が低下し脈拍の減弱(または消失)を認める奇脈や,吸気時の頸静脈怒張(Kussmaul徴候)は重要である.

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