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GL鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015
治療のポイント
・成人の鼠径ヘルニアに自然治癒はなく,治療方針は,手術または経過観察の二者択一である.症状,併存疾患などを総合的に判断し方針を決定する.
・嵌頓から腸管虚血,壊死に至る場合には緊急手術が必要となる.緊急手術の適応は,多くの場合強い疼痛などの症状で判断できるが,特に高齢者では症状の訴えがなく経過することがあり注意を要する.
本項では成人のヘルニアを扱うため,小児のヘルニア(→),食道裂孔ヘルニア(→)は別項を参照のこと.
Ⅰ.鼠径ヘルニア,大腿ヘルニア
◆病態と診断
A病態
・成人鼠径ヘルニアは,加齢や腹圧による鼠径部腹壁の脆弱性や,腹膜鞘状突起の開存などによって起こるとされる.60~80歳の男性に多い.
・大腿ヘルニアは,高齢の痩せた女性に多く,嵌頓のリスクが高い.
B診断
・診断は,立位・臥位で力んで腹圧をかけさせ,膨隆を確認し,還納可能か,圧痛の有無,部位などを評価し診断する.非典型例,非還納性腫瘤,嵌頓例に対しては,超音波,CT,MRIを追加で行う.
◆治療方針
日本ヘルニア学会「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2015」を参照.
自然治癒はなく,原則は手術である.ヘルニアバンドは推奨されない.
男性は,症状を有し日常生活に支障があれば手術適応である.むしろヘルニア門が大きく,嵌頓のリスクが低いと判断した場合,重篤な併存疾患をもつ高齢者などに対しては経過観察も選択しうる.
女性では,嵌頓の危険性が高い大腿ヘルニアとの鑑別が困難な場合があり,妊娠やほかの禁忌がなければ早期の手術(腹膜前修復法)が推奨される.
修復は現在ではメッシュ法が標準であり,術式は鼠径部切開法と鏡視下手術がある.術式による成績に大きな差はないが,鼠径部切開法では腰椎麻酔,局所麻酔での施行が可能であり,鏡視下手術では全身麻酔が必要となる.