今日の診療
治療指針

慢性甲状腺炎(橋本病)
chronic thyroiditis(Hashimoto's disease)
吉村 弘
(伊藤病院・学術顧問(東京))

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治療のポイント

・甲状腺機能低下症が一過性か永続性かを判別する.

・一過性の原因として,出産,ヨウ素の過剰摂取,ヨウ素造影剤などがある.

・重篤な機能低下でなければ1~2か月後に再検し,機能の回復傾向をみる.

・妊娠中のコントロールは,初期はTSH<2.5μU/mL,中期以降は<3.0μU/mLを目標にする.

・まれではあるが,甲状腺乳頭癌,悪性リンパ腫を合併する.初診時はエコー検査で否定する.また,経過中に甲状腺腫が急速に増大した場合は悪性リンパ腫を疑う.

◆病態と診断

・男女比は1:20~30と圧倒的に女性が多い.

・好発年齢は40~60歳である.

・確定診断は組織診である.リンパ濾胞,リンパ球浸潤,濾胞細胞の好酸性変化,線維化の証明であるが,実臨床では必要ない.

・臨床的診断は,バセドウ病を否定して,抗サイログロブリン抗体または抗ペルオキシダーゼ抗体陽性である.

・びまん性甲状腺腫を認める例がほとんどであるが,甲状腺腫を認めない例もある.

◆治療方針

 甲状腺機能低下症は潜在性も含めて20~30%に認める.多くは機能正常である.甲状腺機能低下症を認め,ヨウ素の過剰摂取がある場合は軽いヨウ素制限を行う.永続性が疑われる甲状腺機能低下症ではレボチロキシン(チラーヂンS)を開始する(処方例は,「甲状腺機能低下症」の項参照).

 甲状腺機能低下症を認めない場合は,6か月から1年に1回経過観察を行う.

 潜在性甲状腺機能低下症は原則経過観察であるが,脂質異常症や倦怠感,浮腫など機能低下症状を認める場合はチラーヂンS投与を行って治療効果をみてもよい.

 強い頸部圧迫感や気道狭窄を認めるような巨大甲状腺腫は全摘も考慮する.

A無痛性甲状腺炎

 橋本病,バセドウ病など自己免疫性甲状腺炎を基礎に発症する.中毒症の期間は多くは3か月以内で,その後低下症を経て回復する.発症因子は,出産,ヨウ素過剰摂取,またイ

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