今日の診療
治療指針

乳腺腫瘤の診察手順
diagnostic procedures for breast lump
丹黒 章
(徳島大学大学院名誉教授)

 乳腺腫瘤性病変の診療において一番大切なことは悪性腫瘍を見逃さないことと良性を悪性と誤診しないことである.乳房の“しこり”を訴える患者に対しては,丹念な問診で愁訴との因果関係を考慮しながら視触診を行う.必要に応じて画像検査を加えることで疾患を想定することができるが,経験や先入観にとらわれると誤診の原因になる.乳腺疾患の診断・治療は日々進歩しており,診断に迷う場合は迷わず乳腺専門医にコンサルトすることが肝要である.

A鑑別診断

 乳癌と鑑別すべき腫瘤性病変には嚢胞,線維腺腫,葉状腫瘍,乳管内乳頭腫,腺腫,乳腺症,慢性乳腺炎,脂肪壊死異物性肉芽腫,女性化乳房などが挙げられる.悪性疾患では肉腫,悪性リンパ腫,転移性腫瘍などがある.

B問診

 痛みなどの症状,病悩期間,腫瘤の増大傾向,月経との関連,腫瘤発見時点における,糖尿病の合併,豊胸術や打撲などの外傷や生検,切開手術の既往は診断に重要である.検診受診歴,初潮年齢や月経状況,妊娠出産歴,閉経時期やホルモン補充療法の有無,乳癌,卵巣癌の既往と家族歴をしっかり聴取する.子宮内膜癌や腹膜癌,膵臓癌,胃癌,大腸癌,男性乳癌,前立腺癌の家族歴も重要である.できるだけ多くの情報を得て,それを正しく整理し,診察と検査を進める.

C視触診

 視診においては乳房の左右差,乳頭の傾きや陥凹,びらんの有無,皮膚陥凹(delle)や膨隆,皮下出血や血腫,皮膚の浮腫や色調の変化,炎症性変化がないかを観察する.乳頭のびらんはPaget病を疑うが,乳頭陥凹を伴えば浸潤癌の乳頭浸潤も考慮する.乳頭陥凹の原因には腫瘍の浸潤以外にも乳輪下膿瘍や外傷も鑑別診断に挙げられる.炎症性乳癌ではびまん性の発赤と浮腫を認め,peau d'orangeとよばれるみかんの皮状を呈する皮膚所見も特徴的である.

 触診では腫瘤の大きさ・形状・硬さ,表面の性状と境界,可動性を診る.腫瘍直上の皮膚を

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