今日の診療
治療指針

精神科医療におけるインフォームド・コンセント,共同意思決定
informed consent and shared decision making in psychiatric service
渡邊衡一郎
(杏林大学教授・精神神経科学)

 治療方針を決定する方法は,のように大きく3つに分類される.

Aパタナリスティック・タイプ(従来型)

 治療者の意見が100%採用されるパタナリスティック・タイプ(従来型)は,治療者が自身の経験や考えに基づき方針を決定し,その段階で当事者の意見は採用されない.当事者への説明が重視される現在においては「前時代」的に見えるが,精神科領域において,病識がない,希死念慮が強い,他害行為に及びかねない例では,危機回避を目的とした医療保護入院などの非自発的入院や行動制限が検討されるため,こうした決定法が必要となることがある.

Bインフォームドタイプ

 現在,治療方針決定法は,インフォームド・コンセントを代表とするインフォームドタイプへとシフトしてきている.この方法では,複数の治療方針ごとに治療者が利点・欠点を挙げ,それを基に当事者が方針を決定し,その決定が全面的に採用される.手術をはじめとした種々の身体治療において用いられるが,この決定の主は当事者である.精神科領域においても,任意入院や修正型電気けいれん療法を実施する際にはよく行われている.ただ,この決定法では治療者が意見を述べないことから,ともすれば「あなたの治療ですからあなたが決めて下さい」という展開になり,当事者が判断に迷ったり,治療者に突き放されたという印象をもつことがリスクとしてある.

C共同意思決定(SDM:shared decision making)

 SDMは,当事者はもちろんのこと,治療者も自らの意見を積極的に述べるという双方向のコミュニケーションに基づく.もともと乳癌や糖尿病の治療で注目されたSDMであるが,特に慢性的に経過する疾患や,同程度の効果的な治療選択肢が複数存在する疾患の場合には,当事者の価値観によって治療方針も大きく変わりうることから,SDMの導入が望ましいとされている.つまり,精神科領域においても導入が望まし

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