今日の診療
治療指針

自殺の予防
suicide prevention
菱本明豊
(横浜市立大学大学院主任教授・精神医学)

ニュートピックス

・日本では10~54歳の死因上位を自殺が占める(15~39歳は1位).今般のCOVID-19パンデミックによる未曾有の社会状況のなか,2020年7月以降,日本の自殺率(特に40歳以下の若年層や女性)は急増している.歴史的にも社会情勢悪化(特に経済不況)が長期的な自殺率上昇を招くことは明らかであり,今後さらに深刻化することが懸念される.

治療のポイント

・希死念慮の存在を確認する.希死念慮から自殺念慮への進展があるかを確認する.自殺念慮から自殺の計画や自殺企図に発展しているかを確認する.

・患者の「見せかけの大丈夫」を鵜呑みにしない.周囲の者たちからの客観的な情報も得る.

・患者の希死念慮や自殺念慮をおそれず,言語化させる.

・自殺念慮や自殺企図が疑われたらためらわず精神科へ紹介する.また援助者への情報共有を行う.

・自殺のリスク因子を確認する.ライフイベント(リストラ,倒産,借金,離婚,死別,癌や神経疾患などの進行性で重篤な疾患,痛みを伴う慢性疾患の有無など)と現在の気分変化(うつ状態や不眠や心身の急激な失調)を尋ねる.

・急激な飲酒量増加に注意する.

◆病態と診断

A病態

・自殺行動は死にたいと願うが自殺行為には至らない(=自殺念慮),自殺行為に至ったが死亡しなかった(=自殺未遂),自殺行為に至り死亡した(=自殺)と幅がある.自殺予防の観点からは自傷行為も含めて一連のスペクトラムととらえ,幅広く自殺関連行動を考える必要がある.自殺既遂の10~20倍の自殺未遂者がいることも忘れてはいけない.

・自殺に至る背景には,失業・貧困・病苦・いじめなど了解可能なストレス因が存在する.一般人口における生涯自殺企図率が約1~2%なのに比して,主要な精神疾患患者の生涯自殺企図率は30%を超える.逆の観点からいえば,自殺者や自殺未遂者のおよそ80%に何らかの精神疾患が併存しており,日本ではうつ病な

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