今日の診療
治療指針

住宅の温熱環境による障害
adverse effects of indoor thermal environment
田井義彬
(奈良県立医科大学 疫学・予防医学)

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治療のポイント

・わが国の外気温低下による(死亡数を最小とする外気温に対する)超過死亡は,総死亡の9.8%を占めると推定され,これは,米国(5.5%),英国(8.5%),カナダ(4.5%),スウェーデン(3.7%),韓国(6.9%)の推定値を上回る.

・寒冷曝露による超過死亡の原因には,心血管疾患,脳卒中,気道感染が挙げられる.

・室温低下は,外気温低下より血圧上昇と強く関連する.

・10℃の室温低下は,8.2mmHgの起床後血圧上昇,6.5mmHgの就寝前血圧上昇と関連している.

・人口動態統計で「浴槽での溺死及び溺水」と分類される死亡は2016年以降,年間5,000人を超え,入浴中に発症した内因性疾患(心血管疾患など)を含んだ場合,その数はさらに多くなると推測される.

◆病態と診断

A病態

・寒冷曝露と,血圧上昇/血圧日内変動,血管れん縮,血液過粘稠,凝固因子増加,血小板数増加との関連が報告されており,寒冷曝露による心血管疾患発症の一因と想定されている.

・寒冷曝露による気管れん縮,気道粘膜防御能低下,多核白血球・マクロファージの貪食機能低下が,気道感染の増加に寄与すると推測されている.

・入浴関連死は,冬季に多く(夏季の約7倍)生じ,高齢者が90%以上を占める.居間・脱衣室の温度が低いと,高温・長時間の入浴につながりやすい.環境温度の変化・静水圧(浴槽入浴中に体にかかる水圧)の消失による,急激な血行動態変化を介した心血管疾患の発症,もしくは意識消失脱力体温上昇を介した溺水・熱中症の発症に起因して,入浴関連死が生じると考えられる.

B診断

・温熱環境によって生じる心血管疾患などの各障害については,それぞれの障害に応じた診断を要する.

・入浴関連死が,外因(溺水など),内因(心血管疾患など)いずれによるか,行政解剖・承諾解剖なしでは困難な場合があり,その実態把握,病態解明を困難に

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