今日の診療
治療指針

職場不適応症
adjustment disorder in the workplace
川上憲人
(東京大学大学院特任教授・デジタルメンタルヘルス講座)

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◆病態と診断

A病態

・職場不適応症は,仕事上の要求と個人の能力・特性の不一致により,抑うつや不安などの精神症状や,仕事上の役割がこなせないなどの行動上の問題が生じた状態である.

・職場不適応症は職業上のストレス因子,例えば,長時間労働,緊張の持続する労働,職場の人間関係,ハラスメント,職務内容の不適性などによる適応障害と考えることができる.本人側の要因,例えば,性格,価値観,軽度の発達障害,仕事の経験や能力不足あるいは家庭生活の問題などが背景となる場合もある.

B診断

・DSM-5診断基準に準じれば,他の精神障害の診断基準を満たさない場合で,仕事と関連した明確なストレス因子があり,そのために気分や行動の問題が起きて,過度な苦痛があるか,あるいは社会的・職業的な機能に支障が生じている状態とされる.

・症状が職場でのみ現れ,休日は好調であるなど仕事場面に選択的にみられることが多く,他の精神疾患との鑑別に有用である.

◆治療方針

A職場不適応症への対応

 症状が軽度である場合には,①運動,睡眠など,気分の改善につながる生活習慣を指導する.原因となっているストレス因子への理解を促し,可能な対処法を本人と相談する.認知行動的なカウンセリングを利用することもある.②職場不適応の要因となる仕事上の要因があれば,本人の同意のうえで職場責任者に意見を伝え,作業場や作業内容などの調整を依頼する.例えば,期間を限定した労働時間の制限,業務内容の変更などがありうる.配置転換は必要性が十分に明確な場合に本人,人事担当者,職場責任者と十分意見交換したうえで提案する.

 抑うつや不眠などの症状が強い場合,あるいは仕事や生活の支障が大きい場合には,精神科医などの専門医において薬物治療や精神療法を行う.

B職場でのうつ病・職場不適応症の対策

 うつ病や職場不適応症などの第1次予防(未然防止)には,個人向けのストレス

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