今日の診療
治療指針
小児

小児の肘関節周囲骨折
pediatric fracture around the elbow
西須 孝
(千葉こどもとおとなの整形外科・院長)

治療のポイント

・さまざまな骨折があるが,上腕骨顆上骨折と上腕骨外側顆骨折が代表的な骨折である.いずれも初期治療が重要で,後遺症を残す頻度がほかの部位の骨折と比較して高い.

・血流障害や神経障害による後遺症が残らないことを最優先して治療を行う.

・上腕骨遠位部の変形癒合は自家矯正が起こりにくいため,できるだけ整復する必要がある.

・Trash lesionとよばれる主に軟骨部分で生じる骨折は,単純X線検査で骨折線が確認できないことが多く診断が難しい.しかし重い後遺症が残ることもあるので,初期診断が重要である.X線検査で異常所見が乏しい割に,肘関節周囲の腫脹が強いときは,こうした軟骨部分での骨折の可能性を考慮して診断を進めていく.MRI検査や関節造影検査が診断に有用である.

・小児の肘関節外傷においては,肘内障とよばれる輪状靭帯脱臼が多い.一方,初期のX線検査では同定できない不全骨折も多い.この両者の鑑別は容易でない.超音波検査で輪状靭帯脱臼の所見があれば徒手整復を行い,関節血症の所見があればギプスシーネ固定を行う.肘内障は整復できないこともあるが,その場合は痛みがとれるまでギプスシーネ固定を行い自然治癒を待つ.

・尺骨骨折に併発する橈骨頭脱臼は,初期診断で見落とすと陳旧性橈骨頭脱臼となり,時間の経過とともに難治性となるので,初期診断が重要である.

・上腕骨遠位部の骨折では,骨折してから数年後に滑車部の壊死によるfishtail変形が生じることがある.この変形を予防できる治療法はない.

Ⅰ.上腕骨顆上骨折

◆病態と診断

A病態

・10歳以下の小児が,転んだり転落したときに床や地面に手を着いて受傷することが多い.

・転位を伴わない不全骨折,転位を伴う若木骨折,大きな転位を伴う骨折(図1a)などさまざまな骨折型がある.

・大きな転位を伴うケースでは,上腕動脈損傷による血流障害の可能性もある.また,肘を通

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?