今日の診療
治療指針

頸椎損傷
cervical spine injury
八幡直志
(埼玉医科大学総合医療センター講師・高度救命救急センター)

ニュートピックス

・超高齢社会になり,低エネルギー外傷による上位頸椎損傷の発生頻度が増えている.特に高齢者軸椎骨折では,損傷後に発生する嚥下障害,誤嚥性肺炎,尿路感染といった合併症が多く,死亡率,偽関節率の高さが問題となっている.

治療のポイント

・頸椎を安定化することで疼痛をコントロールし,早期離床を促すことは合併症の予防に重要である.

・高齢者に対するhalo固定の長期装着は,合併症率や死亡率が高いとの報告が多い.

・頸椎骨折に合併する頸髄損傷に対し,迅速な除圧術が重要である.

・頸椎骨折に合併する椎骨動脈損傷についても注意を払う.

・画像検査で良好なアライメントであっても,必ずしも損傷部位の安定性を示すものではないため,X線動態撮影が必要なこともある.

◆病態と診断

A病態

・上位頸椎である環椎・軸椎は,それ以下の中下位頸椎と形態が大きく異なっており,頸部回旋運動に特化した形状となっている.高齢者では加齢性変化により中下位頸椎の屈曲伸展といった可動性の低下が生じているため,低エネルギー外傷であっても上位頸椎に応力が集中し,粗鬆骨も相まって骨折しやすい.

・中下位頸椎では前方要素である椎体のみの骨折,後方の棘突起や靭帯にまで損傷が及んだ骨折,脱臼し転位のある骨折の順に不安定性が大きくなる.また隣接椎との連結部である椎間関節に損傷が及ぶと転位が生じやすい.

・椎骨動脈は鎖骨下動脈から分岐したのち,横突孔を通って頭蓋内に入り,左右が合流し脳底動脈となる.これは,脳幹や大脳後内側を栄養する重要な後方循環であるため,椎骨動脈の損傷で血流障害が生じると,致命的な脳梗塞が発生しうる.特に,頸椎が脱臼した場合や,横突孔に骨折が生じた場合は,血管が引き延ばされたり,直接骨片で圧迫されたりするため椎骨動脈損傷のリスクが高い.

B診断

・粗鬆骨では重なり合った上位頸椎や小さな椎間関節の骨折の描出が不良となるため,頸椎

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