今日の診療
治療指針

ウィルムス腫瘍(腎芽腫)
Wilms tumor
井上貴博
(三重大学大学院教授・腎泌尿器外科)

頻度 割合みる

◆病態と診断

A病態

・ウィルムス腫瘍は小児の腎臓に発生する代表的な悪性腫瘍で,本邦では年間80~100例が発生している.その頻度は出生数1.2~1.5万人に1人といわれており,発症年齢は1歳未満で20%,1歳では30%を占め,5歳までに90%が発症する.性別の違いによる発生率はやや女児に多い傾向がある.北米・欧州に比べ東アジアでの発症率は低い.多くは片側性であるが7%程度が多発性で,5~9%は両側性である.

・後腎胚種質(metanephric blastema)を母地として発生する腫瘍である.metanephric blastemaは上皮成分と間質成分とに分化するが,腫瘍化した場合にも両成分が種々の割合で混在する.したがって組織像として胚種質,上皮性,間質性の3要素が種々の割合で混合して構成されるが,3要素中の一部のみから構成される場合もあり,きわめて複雑な組織像を呈する.

・ウィルムス腫瘍の10~15%は無虹彩症,尿道下裂・停留精巣などの泌尿器系奇形,片側肥大などの異常を伴うWAGR症候群,Denys-Drash症候群,Beckwith-Wiedemann症候群などの遺伝性疾患の一症状として発生する.しかし多くは散発性に発生する.

WT1WT2CTNNB1TP53WTXなどの遺伝子の変異がウィルムス腫瘍にかかわっていることがわかっている.

B診断

・ほとんどが無症状で,腹部腫瘤で発見されることが多い.約20%程度が血尿,発熱,高血圧,尿路感染,便秘,体重減少などの症状で発見される.まれに転移による症状(呼吸困難,腹痛,開始浮腫など)が発見の契機になることもある.腫瘍の急激な増大による腫瘍出血で貧血・腹痛をきたすこともある.

・特異的な腫瘍マーカーはなく,造影CTが鑑別診断,原発巣の浸潤,腎静脈から下大静脈への進展,転移巣の全身検索に有用である.対側の腎臓にも腫

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