今日の診療
治療指針

遊走腎(腎下垂)
floating kidney(nephroptosis)
小林 恭
(京都大学教授・泌尿器科学)

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治療のポイント

・典型的な患者像(痩せた若年女性に多い)や特徴的な症状(長時間の立位で悪化し横臥によって軽快する鈍痛)から遊走腎を疑い,他の鑑別診断(結石・腎盂尿管移行部狭窄症・炎症など)を除外することによって診断に至る.

・症状の原因が本当に遊走腎なのかどうかの見極めがしばしば困難である.

◆病態と診断

A病態

・腎臓は線維性被膜とGerota筋膜とよばれる脂肪組織,さらにその周囲の結合織の層に覆われており,その前方には腹膜,後方には後腹壁の筋肉が存在する.遊走腎の病態は完全には解明されていないが,上記の周囲結合組織による支持が不十分なため腎の可動性が高くなり,腎臓の過度の回転あるいは下行が起こる.

・その結果,腎動静脈の伸展やねじれ,あるいは腎盂尿管移行部から近位尿管にかけての屈曲やねじれが生じ,血流障害・尿路の通過障害・牽引や伸展による刺激によって腎部の鈍痛が引き起こされると考えられている.

B診断

腹部X線写真上,臥位と比較し立位で腎臓が5cmあるいは2椎体以上にわたって下行することが診断の基準とされている.同基準を適応した場合,痩せた女性においては最大20%で遊走腎が認められるとされている.

・男女比は約3:100で,右側のみが70%,左のみが10%,両側が20%とされている.

◆治療方針

 3か月以上にわたって有症状かつほかの原因が除外され,治療に伴う不利益についても十分に説明を受け,納得した患者が外科的治療(腎固定術)の対象となる.

■専門医へのコンサルト

・腰背部の鈍痛が持続する場合には他の疾患の鑑別も含めて泌尿器科専門医にコンサルトする.

■患者説明のポイント

・腎固定術を行っても症状が残る可能性があることを十分説明しておく.



文献

1) Srirangam SJ, et al : Nephroptosis : seriously misunderstood? BJU In

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