今日の診療
治療指針
産婦人科

妊娠とくすり
medication during pregnancy
杉山 隆
(愛媛大学大学院教授・産科婦人科学)

A妊娠中の医薬品使用の基本的な考え方

 妊娠中の医薬品投与による胎児への影響に関しては,依然不明な点が多い.なぜなら,妊娠中の女性を対象とした臨床試験は倫理的に困難だからである.また動物実験の結果がヒトにあてはまるわけでもない.また,ヒトの出生児に確認できる先天奇形の頻度は3~5%とされているが,その原因は多岐にわたり,ほとんどが母体への妊娠初期の医薬品投与によるものではない.したがって,医薬品の胎児への影響を考える場合,ヒトが元来有しているベースラインの奇形発症リスクと比し,医薬品投与によりリスクがどれくらい高くなるのか,低くなるのかを評価する必要がある.

 また,米国食品医薬品局(FDA)による胎児リスクカテゴリー分類(A,B,C,D,X)は,2015年に廃止された.FDAによる妊娠および授乳期の使用に関する製品表示規則では,医薬品の情報は妊娠と授乳の項目に,それぞれリスクサマリーと臨床上の注意事項,ヒトや動物への使用に関するデータを文章で記載することが求められている.

B妊娠中の医薬品投与による胎児への影響

 医薬品の投与時期の同定が重要であり,最終月経,超音波検査所見,妊娠反応陽性時期などより慎重に推定することが重要である.そのうえで,投与時期に応じた説明を行うことが肝要である.以下にその概要を示す.

1.受精前あるいは受精から2週間まで(妊娠2週~3週6日)

 一部の医薬品を除き,胎児奇形出現率は増加せず,「All or None(全か無か)」の時期とよばれる.サリドマイドでは,受精後20日目以降の服用で初めて奇形が生じ,それ以前では発生しなかったことより,安全を見込んで4週未満とされている.ただし,この結果がほかのすべての薬剤にあてはまるか否かは不明であることに留意する必要がある.

2.妊娠4週~7週6日

 一部の医薬品で奇形を生じうる.この時期は器官形成期であり,催奇形性が確

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