治療のポイント
・妊娠合併症と外科疾患の両方の可能性を考えて対応する.
・妊娠中に発見された付属器腫瘤の取り扱いは,「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」CQ504を参照する.
・白血球増加など血液検査データの変化,子宮増大による腹腔内臓器の位置移動や循環血液量の増加など妊娠による生理的変化を認識して診断,治療を行う.
・妊娠中の外科疾患は,診断・手術の遅れから流早産に加えて,母体および胎児死亡に至る可能性があり,迅速かつ適切な判断が求められる.
・妊娠中に外科手術が検討される場合には,外科,産婦人科そして小児科が協働して診療にあたる体制が必要である.
◆病態と診断
・妊娠中の画像診断は制限があるが,超音波断層法が第1選択であり,MRI検査も胎児への影響が少なく使用できる.単純X線やCTも必要な場合は撮影を検討する.
A婦人科疾患
・外科的介入が必要となる婦人科疾患で最も頻度が高いのは付属器腫瘤である.
・妊娠中に発見される付属器腫瘤の頻度は,5~6%であり,そのうち妊娠経過中に捻転が0.2~22%,破裂が0~9%,分娩時障害が2~25%に発生すると報告されている.
・経腟超音波検査にて腫瘤の大きさ,形状などから良悪性の評価を行う.場合によってはMRI検査も併用する.
・CA12-5,hCG,AFPなど腫瘍マーカーの一部は妊娠により生理的に上昇するため,その評価には注意を要する.
B虫垂炎
・発症頻度は,全妊産婦の0.05~0.1%と報告されており,非妊婦と発症頻度は変わらない.
・典型的な症状に乏しく,子宮増大に伴い虫垂の位置が変化し,血液検査も妊娠に影響を受けるため診断が遅れやすい.
・診断は画像診断,特に超音波断層法が第1選択であるが,MRIも有用である.場合によっては,放射線曝露に留意しながら非妊時同様にCTを用いる.
C胆嚢炎
・発症頻度は,全妊産婦の0.01~0.05%と報告されている.
・妊娠