治療のポイント
・実施による利益と危険性について,あらかじめ文書による説明と同意の取得が必要である.
・子宮破裂が疑われた際にすみやかな帝王切開術が施行できる体制が必要である.
◆病態と診断
・TOLACは,より自然な分娩が期待できる,出血量,輸血量,感染症のリスクが低い,入院期間が短くてすむなどのメリットがある一方で,子宮破裂を0.2~0.7%程度に認めるため選択的帝王切開に比して周産期死亡率は有意に高い.
・TOLAC成功率は施設によって大きく異なるが,一般的には60~80%程度である.
◆治療方針
TOLACを行う際には,以下の条件をすべて満たしていることが求められる.
①緊急帝王切開および子宮破裂に対する緊急手術が可能である.②既往帝王切開術式が1回である.③既往帝王切開術式が子宮下節横切開で術後経過が順調であった.④子宮体部筋層まで達する手術既往あるいは子宮破裂の既往がない.
一方でこれらの条件を満たしていたとしても,緊急帝王切開までに時間がかかるなど安全性の確保が十分でないと医療者が判断した場合にはTOLACを提供する必要はない.
A分娩時の対応
分娩監視装置による胎児心拍数の連続モニタリングを行う.分娩誘発あるいは陣痛促進の際にプロスタグランジン製剤の使用は禁忌である.陣痛促進目的でのオキシトシンの使用は必ずしも禁忌ではないが,TOLAC施行時の分娩進行不良そのこと自体が帝王切開の適応になりうることに注意する.また,TOLAC施行時に胎児心拍数異常を認めた際には子宮破裂を疑いすみやかな帝王切開の施行を検討する必要がある.
B経腟分娩後の対応
経腟分娩後に,ショックないし持続する外出血により子宮破裂と診断されることがあるため,経腟分娩後は子宮破裂に留意し,母体のバイタルサイン(shock indexなど)の変化と下腹痛の有無の観察が必要である.
文献
1) 日本産科婦人科学会, 他