Ⅰ.鼠径ヘルニア
頻度 よくみる
GL鼠径部ヘルニア診療ガイドライン(2015)
治療のポイント
・小児の鼠径ヘルニアは,ほとんどが先天性の腹膜鞘状突起の開存が原因である外鼠径ヘルニアであり,手術治療が必要である.
・脱出臓器の非還納あるいは血流障害を伴う嵌頓は,緊急性を有する病態である.
・小児外科専門医による手術治療が望ましい.
◆病態と診断
A病態
・小児の鼠径ヘルニアは,本来は退縮・消失する腹膜鞘状突起の開存が原因であり,腹圧がかかることで内鼠径輪から腹水や腹腔内臓器が鼠径管内に脱出し膨隆する.
・脱出臓器は腸管,大網が多く,女児では卵巣,卵管の脱出が認められることがある.
・発症頻度は50人に1~2人であり,早期産児では発症頻度が高い.男女比は1.5で男児に多く,右側がやや多い.
・脱出した臓器が戻らない非還納性ヘルニアや脱出臓器の血流障害を伴う嵌頓ヘルニアは緊急性を有し,迅速な対応が必要である.
B診断
・診断は鼠径部の膨隆を確認することであるが,はっきりしないこともある.特に女児ではわかりにくいことも多く,注意を要する.
・立位や腹部の圧迫にて鼠径部や陰嚢の膨隆を認めるが,安静時には消失することが多い.
・診察時に膨隆を認めないこともあるので,膨隆時の写真(デジタルカメラやスマートフォン)を撮ってきてもらうように依頼する.
・鼠径部を指でこするように診察すると,絹のこすれる触感があり「シルクサイン」とよばれるが,シルクサイン陽性と鼠径ヘルニアの診断は別であり,膨隆を確認して初めて鼠径ヘルニアと診断できる.
・非還納性ヘルニアは腫瘤が硬くなり疼痛を伴うが,新生児や乳児では不機嫌を呈するだけのこともあり,注意を要する.
・嵌頓ヘルニアの2/3は乳児期に発症し,腫瘤の硬化,疼痛に加えて,局所の発赤,さらには嘔吐,腹痛,腹部膨満などの腸閉塞症状を認めるようになる.
・診断困難時は超音波検査が有用であり,内鼠