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認知症(アルツハイマー病)の軌道学
illness trajectory of dementia(Alzheimer's Disease)
神戸泰紀
(こだまクリニック・院長(東京))

Aアルツハイマー病の軌道:臨床経過と重症度

 認知症の原因疾患の約半数を占めるとされるのがアルツハイマー病(AD)である.その臨床経過は,直線的進行と仮定した場合,MMSE(Mini Mental State Examination)が1年で3~3.5点低下していくことが報告されている.コリンエステラーゼ阻害薬やN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬の使用により進行遅延が期待できる.軽度~中等度の時期には行動心理症状が,中等度~重度の時期には身体的問題が生じやすい.

 重症度は,認知機能自体に加えて生活機能を考え判断する.尺度としてCDR(Clinical Dementia Rating),FAST(Functional Assessment Staging)in Alzheimer's Disease,そして介護保険主治医意見書における認知症高齢者の日常生活自立度(認知症自立度)がある.以下に重症度ごとの要点を記す.

1.軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment):CDR 0.5,FAST 3に相当

 日常生活は自立しているが,時間を要したり非効率であったり間違いが多くなる状態をMCIという.例えば,請求書の支払いをする,内服薬を管理する,職業上の複雑な仕事をするなどの遂行は可能だが,大きな努力を要し,工夫などが必要な状態をいう.MCIは,近時記憶障害を主体とする健忘型MCIと,遂行機能,注意力,言語,視空間認知の障害を主体とする非健忘型MCIに大別される.ADによるMCIは健忘型MCIが多く,近時記憶障害が一貫してあるが部分的に思い出すことが可能である.

2.軽度認知症:CDR 1,FAST 4,認知症自立度Ⅱに相当

 一人での日常生活維持が困難となり,少なくとも誰かが注意をしていなければ自立は困難となる.請求書の支払い,買い物,内服

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