今日の診療
治療指針

妊婦・授乳婦への薬物療法とリスク分類
林 昌洋
(虎の門病院・薬事専門役)
笠原英城
(日本医科大学武蔵小杉病院・薬剤部長)


Ⅰ.はじめに


 医薬品の臨床試験では,倫理的配慮から妊婦・授乳婦は一般に除外対象とされている.このため市販された医薬品のヒト胎児や乳児への毒性に関する情報は明らかではないことが多い.こうした事情から医薬品適正使用の原点となる添付文書には「治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与」,「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し,授乳の継続又は中止を検討すること」と薬物療法の原則論ともとれる記載が多く,臨床家の判断を困難にしている.

 加えて,1950年代後半から1960年代にかけて人類が経験したサリドマイドの教訓により,医療従事者はもとより一般の妊婦にも薬物の催奇形性に関する認識が普及し,むしろ過剰な不安を抱く傾向がある.

 第二のサリドマイド禍を避けるための慎重な配慮の一方で,胎児・乳児への影響を懸念するあまり必要な処方が控えられることによる母児の不利益は避けなければならない.そのためには,薬物が胎児・新生児・乳児に及ぼす影響を適正に評価し,治療上の必要性を満たし危険度が低い薬物を使用する必要がある.

 しかし,多忙な医療現場の治療において個々の医薬品の危険度評価をその都度行うことは,時間との兼ね合いもあり困難な場合もある.こうした際の処方の原則は添付文書の記載になる.

 わが国の添付文書の「9.特定の背景を有する患者に関する注意」「9.5 妊婦」および「9.6 授乳婦」は,「使用上の注意」に関する記述であり,国内外の薬物療法に関する公的ガイドラインで妊婦・授乳婦に推奨される薬物療法に関する情報が記載されているとは限らない.こうした際に参考になるのが妊娠と薬,授乳と薬に関する専門書籍や海外の公的リスクカテゴリーである.


Ⅱ.妊婦に関するリスクカテゴリー


 ここでは,わが国の医療用医薬品添付文書の記載と対比させる形で,虎の門病院妊娠と薬薬剤危険度分類(以下,虎の門分類)と

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