A.肝障害時
1.肝機能の評価
肝障害時の薬物動態の変化は単純ではなく,現時点では薬物投与量を定量的に補正するための簡便な臨床的指標はない.一般的に,個々の薬物代謝酵素の活性を正確に評価するためには比較的安全なプローブ薬を用いた負荷試験(薬物動態試験)が必要となるが,薬物代謝に関与する経路(酸化,還元,抱合など)や酵素分子種はそれぞれの薬物で異なっており,しかも肝障害による各酵素活性への影響は一様ではないために,負荷試験の臨床的有用性は限定的である.また,肝血流量の評価法としてはインドシアニングリーン薬試験が有用であるが,有害反応としてショックが出現することがあり,安易にできる検査ではない.一方,酸性薬物の蛋白結合率低下の指標として血清アルブミン濃度がある.肝障害のために血清アルブミン値の低下やプロトロンビン時間の延長を認める場合には,肝薬物代謝酵素活性も低下していることが知られている.したがって,肝障害の重症度がChild-Pugh分類(表2図)のグレードB以上では,非結合型薬物が増加するとともに肝薬物代謝能が減弱しているために,通常量を用いた場合には薬効が強くなりすぎる危険がある.
2.薬物投与法
肝障害時の薬物療法の原則を表3図に示す.
a.使用薬物数
薬物療法を行う際にまず念頭におくべきことは使用する薬物数をできる限り少なくすることである.複数の薬物を使用する際には,肝機能が正常な患者においても薬物相互作用により有害反応のリスクが増加する.薬物相互作用が生じる部位としては代謝部位が最も多く,特に肝における薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)を介したものが多い.CYPは基質特異性が低く,1つのCYP分子種が複数の薬物の代謝に関与するため,同一のCYP分子種で代謝される薬物を2つ以上投与した場合には,CYPに対する親和性が強く,かつ代謝されにくい薬物がほかの薬物の代謝を