頻度 ときどきみる
2022年の厚生労働省食中毒統計資料によると10人以上の患者が発生した集団食中毒は121件あり,飲食店をはじめとして給食事業所,旅館,仕出し屋などが原因施設となっていた.うち死亡例の原因物質は腸管出血性大腸菌(EHEC:enterohemorrhagic Escherichia coli)であった.
病原性微生物に起因する食中毒には,細菌性食中毒とウイルス性食中毒とがある.毒性の強い病原性大腸菌と感染性の高いノロウイルスについて解説する.
Ⅰ.病原性大腸菌
◆病態と診断
A病態
・食品の調理過程のみでなく,製造過程や保存において付着した細菌が増殖して毒素を発生する.
・病原性大腸菌には5種類があるが,腸管出血性大腸菌O157では2~3日の潜伏期ののち,水様性下痢と腹痛で発症する.ほとんどに血便がみられる.
・O157,O111の菌体が出すベロ毒素による.溶血性尿毒症症候群(HUS:hemolytic uremic syndrome)や脳症を併発すると予後は悪い.乳幼児や高齢者で頻度が高い.
B診断
・便培養による病原菌の同定とベロトキシン検出により診断する.
◆治療方針
まず安静と水分補給(脱水補正)を行う.止痢薬の使用は控える.重症例では集中治療管理が可能な高次医療機関へ転送する.なお,腸管出血性大腸菌は3類感染症で保健所へ届出の義務がある.
A軽症例(飲水可能例)
Px処方例 1),2)のいずれかと3),4)のいずれかを併用する.
1)レボフロキサシン(クラビット薬)錠(500mg) 1回1錠 1日1回
2)ホスホマイシンカルシウム(ホスミシン薬)錠(500mg) 1回2錠 1日3回
3)耐性乳酸菌(ビオフェルミンR薬)散 1回1g(製剤量として) 1日3回
4)耐性乳酸菌(ラックビーR薬)散 1回1g(製剤量として) 1日3回
B重症例(脱水あり)
まずは脱水の治療を優先する.強
関連リンク
- 治療薬マニュアル2024/レボフロキサシン水和物《クラビット》
- 治療薬マニュアル2024/ホスホマイシンカルシウム水和物《ホスミシン》
- 治療薬マニュアル2024/耐性乳酸菌《ビオフェルミンR》
- 治療薬マニュアル2024/生理食塩液《生理食塩液》
- 治療薬マニュアル2024/乳酸リンゲル液《ソルラクト ハルトマン ラクテック ラクトリンゲル液》
- 治療薬マニュアル2024/ラクトミン《アタバニン ビオフェルミン》
- 治療薬マニュアル2024/ドンペリドン《ナウゼリン》
- 治療薬マニュアル2024/アセトアミノフェン(パラセタモール)《カロナール》
- 今日の治療指針2023年版/集団食中毒(O157を含む)
- 今日の治療指針2024年版/生菌製剤
- 今日の治療指針2024年版/腸チフス,パラチフス [■3類感染症]
- 今日の治療指針2024年版/細菌性赤痢 [■3類感染症]
- 今日の治療指針2024年版/感染性胃腸炎 [■5類感染症-定点把握]
- 今日の治療指針2024年版/小児の尿路感染症
- 今日の治療指針2024年版/偽膜性大腸炎(抗菌薬関連下痢症)
- 臨床検査データブック 2023-2024/細菌性食中毒
- 今日の小児治療指針 第17版/抗菌薬起因性腸炎