GL外傷初期診療ガイドラインJATEC改訂第6版(2021)
治療のポイント
・生理学的異常の早期認識と,蘇生的処置,大量出血への対応,外傷死の三徴(代謝性アシドーシス・低体温・凝固障害)の回避.
・外傷診療のチーム医療を意識し,時間を切り詰めた診療と手術・処置.
・自院での対応が困難であれば,重症外傷診療が可能な3次救急医療機関への迅速な転院.
◆病態と診断
A病態
・多発外傷の受傷機転としては,鋭的外傷よりも鈍的外傷による損傷が一般的である.複数部位の重篤な損傷を生じ,呼吸,循環,意識などが不安定となり時にショック状態となる.
・呼吸状態の悪化による低酸素血症の遷延や,循環動態の不安定やショック状態による末梢循環不全が生じると,組織への酸素運搬が低下する.組織では代謝性アシドーシスが進行する.出血に伴う凝固因子の消費と大量の輸液・輸血による低体温,希釈による凝固能低下などから凝固障害を生じやすい状態へと陥る.
・大量出血を伴う多発外傷では代謝性アシドーシス,低体温,凝固障害を伴いやすく,これら3つの徴候を伴うと死亡率が高くなることが報告されておりdeadly triadとよばれる.deadly triadをきたすような悪い状態をきたさないために,できる限り短時間での気道,呼吸,循環動態の安定化,止血処置,意識状態の改善,体温管理などに注意を払うことが救命のために重要である.
B診断
・臨床的に損傷部位を診断していく過程とは異なるが,多発外傷は以下のように考えられている.多発外傷は身体を,頭部・頸部・胸部・腹部・骨盤・四肢などと6区分した場合に,複数の身体区分に重度の損傷が及んだ状態をいう.
・重症度を定量化する指標として,各身体部位の解剖学的損傷の程度で評価するAIS(abbreviated injury score)を用いて,一般的に,AIS3以上が複数区分にある場合を「多発外傷」とよぶ.欧