診療支援
治療

心外傷(心タンポナーデを含む)
cardiac injury(including cardiac tamponade)
天野浩司
(堺市立総合医療センター・救命救急センター救命救急科医長(大阪))

頻度 あまりみない

GL改訂第6版外傷初期診療ガイドラインJATEC(2021)

◆病態と診断

・心外傷は受傷機転から穿通性心損傷と鈍的心損傷に大別される.診療については「改訂第6版外傷初期診療ガイドラインJATEC」(2021年)に沿った全身評価と対応が必要であり,そのなかで心外傷については以下のように考え,治療方針を決定する.

・穿通性心損傷:刃物や銃弾,高速で飛来した鋭的異物などによるものが挙げられる.穿通による全層性損傷に至ることも多い.胸部単独損傷であることが多く,かつ創部は鋭的なので比較的止血や修復は容易である.しかしすみやかな初期治療や手術を要するので対応できる施設は限られる.出血を原因とするショックや心停止は救命困難であるが,心タンポナーデによる閉塞性ショックが主な病態の場合はすみやかな治療介入により救命可能である.FAST(focused assessment with sonography for trauma)により心嚢液貯留の有無をすみやかに診断することが重要である.

・鈍的心損傷:交通事故やスポーツにおける胸部の直接打撲によるものが多い.全層性の心損傷をきたした場合は基本的に現場で死亡する.心膜や心筋表面,冠動脈などからの出血がある場合,たとえ少量でも心タンポナーデを生じる場合がある.出血の所見がない場合でも,心筋挫傷による不整脈や弁,冠動脈の損傷などを生じていることがある.そのため,全身状態が安定していても,前胸部の打撲痕や胸骨骨折など心損傷を疑う所見があれば,12誘導心電図,心筋トロポニンやCK-MBなどの心筋逸脱酵素,心エコーなどの検査を実施して異常の有無を確認する必要がある.

◆治療方針

A穿通性心損傷

 全層性損傷に至っていない場合は心嚢ドレナージなどの治療で保存的に治癒することもあるが,基本的には全例ですみやかな止血手術が必要である.また,損傷は心筋壁

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