診療支援
治療

穿通性腹部外傷
penetrating abdominal trauma
相星淳一
(東京女子医科大学八千代医療センター教授・救急科)

頻度 情報なし

治療のポイント

・刺創の部位によっては,腹腔内臓器以外の臓器が損傷を受ける可能性がある.

・銃創では管腔臓器や肝臓が受傷しやすく,刺創と比較して外科的治療を要することが多い.

・穿通性腹部外傷(刺創,銃創)に対する緊急開腹の適応は,出血性ショック,汎発性腹膜炎,臓器脱出,消化管出血,異物の体内遺残である.

A病態

 本邦の穿通性腹部外傷は包丁やナイフなどによる鋭的損傷が多く,本項では刺創を中心に解説する.

 前腹部刺創(前腋窩線,肋骨弓,鼠径部の範囲)の50~75%で腹膜穿通を認める.損傷臓器としては管腔臓器が多く,腹膜穿通例の半数以上で開腹術が行われている.

 胸腹部(前面では第4肋間から肋骨弓,後面では肩甲骨下角から第12肋骨の範囲)の刺創では,鋭器が横隔膜や腹腔内臓器の損傷を引き起こすことがある.

 側腹部(前・後腋窩線,肋骨弓,腸骨稜の範囲)や背腹部(後腋窩線,第12肋骨,腸骨稜の範囲)の刺創は,後腹膜腔や後腹膜に近接する臓器(腎,大血管,大腸など)を損傷する可能性があるが,身体診察や超音波検査では特異的所見に乏しく注意が必要である.また,小腸損傷も4割で認める.

 腹部銃創の80%以上の症例は外科的治療を要し,米国における死亡率は10%に及ぶ.損傷臓器は小腸や大腸などの管腔臓器や肝臓が多く,弾丸の跳飛や破片で胸腔内臓器などを損傷することもある.

B診断と治療方針

 穿通性腹部外傷(刺創,銃創)に対する緊急開腹術の適応は,①腹腔内出血によるショック,②汎発性腹膜炎,③腹腔内臓器(腸管,大網など)の脱出,④胃(吐血,胃管排液)や直腸(下血,直腸診)からの出血,⑤異物の体内遺残である.

 前腹部刺創に対する診断・治療のフローチャートを示す().緊急開腹術の非適応症例では,局所麻酔下に刺創路を展開して腹膜の穿通を目視で確認するlocal wound exploration(LWE

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