治療のポイント
・循環動態が不安定な腎損傷は緊急手術の適応である.
・腎損傷のみで致命傷となることはまれだが,肝・脾を中心に他臓器・他部位損傷を合併していることが多く,他科と連携した診療が重要となる.
・膀胱損傷は発生部位により,腹膜内/外破裂へ分類され,治療方針の決定に重要である.
・尿道損傷は外的外傷と医原性外傷に分類され,圧倒的に男性に多く認められる.
・腎・尿路損傷の管理においては,その後の腎機能低下や尿失禁,排泄障害,性的機能不全などの可能性を考慮して治療すべきである.
◆病態と診断
A病態
・血尿の程度は腎損傷の重症度を予測するものではなく,その有無のみでは判断できない.
・膀胱損傷は発生部位によって腹膜内破裂,腹膜外破裂,腹膜内外破裂に分類される.骨盤骨折では腹膜外破裂が起こりやすく,腹膜内破裂は膀胱の急激な内圧上昇により起こる.
・尿道損傷は若年男性に多く,前部では騎乗型外傷による球部尿道損傷,後部では骨盤骨折に関連するものが大部分を占める.診断を逸すると長期的な機能異常やQOL低下につながる.
B診断
・腹部外傷の初期評価にはFAST(focused assessment with sonography for trauma)を行うが,初期には腹腔内は陽性とならないことが多い.
・腎損傷の分類には,日本外傷学会分類やAAST(米国外傷外科学会)のOIS分類が用いられる.確定診断は,循環動態が安定していれば造影CTで,循環動態不安定な症例では手術室で開腹下に診断される.CTが撮影できる場合は造影CT排泄相までの撮影を行う.
・膀胱損傷では肉眼的血尿が最も一般的な臨床所見である.逆行性尿道膀胱造影やCT膀胱造影が診断に有用である.
・尿道損傷では逆行性尿道造影が診断に有用で,分類法としてGoldmann分類,AAST分類,EAU(欧州泌尿器科学会)分類などがある.