診療支援
治療

腹部大血管損傷
abdominal major vascular injury
井上潤一
(日本医科大学武蔵小杉病院教授・救命救急科)

治療のポイント

・銃創による穿通性外傷が少ないわが国では,腹部大血管損傷に遭遇する機会はまれである.しかしその死亡率は高く,救命には解剖学的理解をふまえた迅速かつ的確な止血が必要である.

・腹部大血管は後腹膜に位置する.出血が後腹膜にとどまるものや解離性の損傷で循環動態が安定している場合は,疑いを含め診断がつき次第,直ちに専門医にコンサルトするか高次専門機関へ転送する.

・腹腔内出血をきたしているものや,後腹膜にとどまる出血であっても循環動態が不安定なものは,ただちに緊急止血術が必要である.

・手術はダメージ・コントロール戦略により行う.圧迫止血と血行遮断による一時止血や一時的血管内シャント留置による血流維持ののち,血管修復をはかる.止血困難な場合は救命のために結紮止血することも選択しうる.

・近年,鈍的腹部大動脈損傷に対してはステントグラフトによる血管内治療が増加している.

◆病態と診断

A病態

・腹部大血管として腹部大動脈と下大静脈,それらの分枝として腹腔動脈,上腸間膜動静脈,下腸間膜動静脈,腎動静脈,さらに門脈,腸骨動静脈が含まれる.

・鈍的損傷は,体幹部に強い外力急激な減速作用が加わる受傷機転により発生する.血管壁自体の損傷,分枝の引き抜き,腹部臓器損傷や骨盤骨折などに合併して出血をきたす.内膜損傷による血栓閉塞や解離を生じる場合もある.

・銃創や刺創では血管の断裂や離断から大量出血となる.

B診断

・「外傷初期診療ガイドラインJATEC」の診療手順に沿って進める.ノンレスポンダーで緊急手術となる場合は,開腹所見で腹部大血管損傷の診断に至ることが多い.

・Secondary Surveyに進んだ場合は,造影CT検査で造影剤の血管外漏出像や大量の後腹膜血腫,血管の仮性動脈瘤や解離,閉塞の所見から診断する.

◆治療方針

A大量輸血の準備

 出血に備え,異型適合血も含め十分な量を迅速に確保する.輸血す

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