GL改訂第6版外傷初期診療ガイドラインJATEC(2021)
ニュートピックス
・社会の高齢化に伴い本邦では転倒などの低エネルギー外傷で生じる脆弱性骨盤輪骨折が注目されており,高エネルギー外傷に伴う骨盤輪骨折とは違った注意が必要である.
治療のポイント
・高エネルギー外傷に伴う骨盤輪骨折では,蘇生と同時並行での止血,輸血,固定が重要である.骨盤輪骨折を疑う外観変形(著明な脚長差,外旋位の下肢)にて早期の外固定を積極的に実施し,輸血と止血をすみやかに行う.
・低エネルギー外傷に伴う高齢者の脆弱性骨盤輪骨折では,骨盤正面のX線撮影で恥骨骨折や坐骨骨折を認めた際には骨盤後方要素(仙腸関節,仙椎)の骨折がないかを疑い,必要に応じてCT/MRI精査を追加する.骨粗鬆症薬の投与も必須である.
◆病態と診断
A病態
・高エネルギー外傷に伴い発症する.
・骨盤輪は左右の寛骨(腸骨,恥骨,坐骨で構成)と仙骨が靭帯で強靭に連結されて輪状構造を構成する.この輪状構造が破綻したものが骨盤輪骨折で,骨盤内臓器損傷や後腹膜出血を主としたショック,神経障害をきたす.
・脆弱性骨盤輪骨折は軽微な外力で発症し,初期は転位がなくても経過で増大し,他部位が骨折・転位し著明な疼痛と運動障害を引き起こすことがあるのが特徴である.
B診断
・骨盤単純X線撮影にて「改訂第6版外傷初期診療ガイドラインJATEC」に示された手順で読影を行い,不安定骨盤輪骨折があるかどうか判断する.
・バイタルの異常を伴う場合には蘇生後に造影CTを行い血管外漏出がないか読影し,ある場合には経カテーテル動脈塞栓術(TAE:transcatheter arterial embolization)を行う.
・高齢者の転倒後の恥骨骨折などは軽度の外傷と軽んじることなく,後方要素の損傷がないか常に注意を払う.安静にて症状が改善しない場合にはCT/MRI精査を追加し診断を確定させ