頻度 あまりみない
治療のポイント
・頭部外傷や胸部外傷がない四肢外傷の患者に意識状態の変化や呼吸状態の悪化が認められたら本症候群を疑う.
・急性期のCT scanでは頭蓋内病変を指摘できないことが多いため,全身状態が許せばMRIを施行する.
・本症候群に対する特異的な治療はない.意識レベルの低下や呼吸状態の悪化に対しては,気道確保のうえ人工呼吸管理を行う.脂肪塞栓予防のためにも骨折の治療は可及的すみやかに行う.
◆病態と診断
A病態
・主に長管骨や骨盤の骨折に伴い,骨髄の脂肪滴が全身の微小血管を塞栓して発症する.脂肪塞栓そのものは長管骨骨折患者の90%近くに生じているとされるが,そのごく一部が本症候群を発症する.典型例では,受傷後12~72時間で症状が発現する.塞栓による直接的な組織の損傷と脂肪滴により惹起される炎症が病態として推測されている.
・心房・心室中隔欠損などのシャント病変が存在すると重症となることが予想されるが,シャントが存在しなくても脂肪滴が肺の毛細血管を通過して体循環に入ると考えられている.
・脳に不可逆的な微小梗塞もしくは出血を起こす場合もあるが,炎症性病変は可逆的であることが多い.このため一時的には意識障害が進行しても多くは回復する.ただし,重症例では後遺症を残す.
B診断
・わが国では,鶴田らの基準もしくは,Gurd and Wilson基準が用いられている.いずれも主要症状として,「頭部外傷と関連しない脳・神経症状」「呼吸不全」および「点状出血」を含むが,すべてが揃うとは限らない.その他の異常所見としては,発熱,頻脈,貧血,血小板減少などがあるが,いずれも外傷に随伴するため本症候群に特異的ではない.
・脳病変をCTで指摘することは困難なことが多い.バイタルサインが許せばMRIを施行する.T2強調像,FLAIR(fluid attenuated inversion reco