診療支援
治療

バレメトスタットトシル酸塩


特 徴

 再発または難治性の成人T細胞白血病(ATL)リンパ腫に適応を有する抗悪性腫瘍薬.

 ATLは,レトロウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス1(HTLV-1)が白血球中のT細胞に感染し,感染したT細胞から癌化した細胞(ATL細胞)が無制限に増殖することで発症するT細胞リンパ腫であり,悪性度が高い.感染経路は,輸血,性交,母乳が知られているが,発症につながる重要な感染経路は母乳による母子感染である.多くの場合は感染しても発症しないキャリアとなるが,生涯でATLを発症する確率は約5%であり,数十年の潜伏期を経て,ATLを発症する.発症年齢は20代まではきわめてまれで,その後増加し,60歳頃をピークに,以降徐々に減少する.ATL発症後の主な症状として,リンパ腺腫脹,肝脾腫,紅斑などの皮膚症状,日和見感染などが出現する.ATLでは癌の悪性形成・幹細胞性の維持に重要な役割を果たすエピジェネティックモジュレーター(EZH)2の発現が亢進しており,約半数の遺伝子座においてメチル化ヒストンが異常に蓄積している.また,EZH2の阻害だけではメチル化ヒストンは残存するが,EZH1とEZH2を同時に阻害することで異常に蓄積したメチル化ヒストンが除去され,ATL細胞株およびATL患者由来のATL細胞の生存能を著しく低下させることが示されている.

 EZH1およびEZH2は,ヒストンH3の27番目のリジン残基(H3K27)を特異的にメチル化するメチルトランスフェラーゼであり,これらは癌の発生・進展などに重要な役割を果たしている蛋白質複合体のポリコーム抑制複合体2(PRC2)を形成する.本剤は,EZH1とEZH2を選択的に阻害する低分子化合物である.詳細な作用機序は解明されていないが,EZH1とEZH2を同時に阻害し,H3K27のメチル化によるPRC2の形成を阻害することで,腫瘍増殖抑制作用を示すと

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